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作品データ
作品名:シェルブールの雨傘 Les Parapluies de Cherbourg (1964)
監督:ジャック・ドゥミ
衣装:ジャクリーヌ・モロー
出演者:カトリーヌ・ドヌーヴ/アンヌ・ヴェルノン/ニーノ・カステルヌオーヴォ
『シェルブールの雨傘』は最上級のオシャレ・フレンチムービー
21世紀に入り、オシャレ女子(特にアパレル販売員、美容部員)にとってミスター・ビッグ級にマストなアイコン・ムービーの位置を占める『シェルブールの雨傘』。一ヶ月の間に日本で発売されるファッション誌の中で、秋冬の季節において最低でも10誌に言及されるほどの作品です。この中にあるファッションセンスは、モードやエッジとは無縁のものですが、ベーシカルを洗練させた心地よい空間がここにはあります。このファッションのカトリーヌ・ドヌーヴが現在の日本にいても全く違和感がありません。
カラフルなファッションのカトリーヌ。でも映画の中のフランスの街並みは決してカラフルでも何でもないんです。「異邦人」でアルベール・カミュが書いているように、パリは「きたない街だ。鳩と暗い中庭とが目につく。みんな白い皮膚をしている」。これをシェルブールに置き換えたような街並み。でもそこに黄色い自転車やレインコート、外から見える窓越しの、お店の中の壁の色、ネオンが水溜りに反射する明かり。そのすべてが盛り付けされた京都のフレンチ懐石料理のような輝きに溢れています。
それはアメリカンなカラフルなキャンディを集めた雰囲気とは間逆な、計算されつくした無作為さをよそおう作為性が見て取れます。本当は、難しい言葉なぞこの作品に不要です。今までの文章は忘れてください。さぁ、楽しみましょう。60年代のミュージカルの楽しみも悲しさも感じましょう。60年代のメロディーに乗りながら、音楽が、ただの騒音ではなかった時代に浸りましょう。恋は、雨の中で作られることが多い理由が分かります。雨の日は、傘を差し、コートを羽織り、心だけは軽くありたいと望み、二人はひとつになる。雨と雪は、多くの男女の恋を生み出してきた。なぜならば、雨と雪とファッションの相性は抜群なのだから・・・。人間は見せすぎるよりも、見せすぎないほうが遥かにクールに見えるんだ。裸でキスをするより、コートを着てキスする方が遥かにセクシーなのです。
フレンチシックの経典=『シェルブールの雨傘』
「それはカーディガン」。男性が常に弱いのは何か?それはミニスカートよりも、ヒールの高いパンプスよりも、白シャツにカーディガンです。フレンチシックの基本は、清潔感です。それはシンプルな組み合わせではなく、生地感とサイズ感の清潔感溢れる組み合わせです。カーディガンと白シャツコーデが、それを推し量る最良の物差しとなります。
センスの良いカーディガンのチョイスは、袖と襟、アンダーラインの丈感と生地の動きと色合いの三拍子によって決まります。秋になるとここ数年の日本では恐ろしい光景を目撃します。グレーのロングカーディガンという名の、ネズミ男ルックの登場です。しわしわでクタクタのロングカーディガンほどみすぼらしいものはありません。
カーディガンは、コットンやメリノウールのハイゲージにつきます。そして、高級な細い糸の物はどうしてもほつれやすく実用性に欠けます。カーディガンに関して言えば、フランス製のものをお勧めします(フランス人は良質のカーディガンに拘りがあります)。全体的に着用したときのしわの付き方によって、容易にその品質は見えてきます。
しわしわのロングカーディガンを着ると言うことは、GUやユニクロに行って、とりあえずおしゃれなコーデをしてみましたと言う空気感がその人から濃厚に漂います。赤ちゃんの乳母車を引く若奥様ならそれも愛らしくて良いのですが、ハンドフリーな女子がねずみ男ルックに身を包んでいたならば、それは目を背けたくなる景色としか言いようがありません。スニーカーにサイズ感のでたらめなパンツにロングカーディガンにツバ広ハットというファストファッション広告コーデに身を包むことは、本人の勝手なのですが、それは間違いなくフレンチ・シックではなく、ただのロープラ・シック(sick=病気)とだけ言っておきましょう。
ジュヌヴィエーヴ・ルック1 イエロー・カーディガン
- 黄色のカーディガン
- 白いシャツ(カーディガンとシャツの袖のバランスに注目)
- 黒のヘアリボン
- ネオンカラーのグラフチェックのプリーツスカート
- ベージュのローヒールパンプス
ジュヌヴィエーヴ・ルック2 ピンク・モヘア・コート
- ピンクのモヘアのコート(パートナーはバーバリーのレインコート)
- ピンクのスリップドレス、裾に白のレース。スパゲッティストラップ
- 黄色のヘアリボン
- ピンクのポインテッドトゥサンダル
- シルバースパンコールのガマ口クラッチ。中にはクリーム色の金縁の手鏡