レス・ザン・ゼロ(0以下)
「冬の散歩道」 1987年11月リリース。全米2位、全英11位
「エジプシャン」の大ヒットは、バングルスに多くの女性ファンを生み出しました。特に10代のファンを獲得し、同性から支持を受けるアイドルバンドの一面も持つことになりました。
そして、翌年1987年に、アンドリュー・マッカーシー、ロバート・ダウニーJr.主演の映画『レス・ザン・ゼロ』の主題歌として曲を提供します。1983年3月からライブで頻繁にパフォーマンスしていたサイモン&ガーファンクルの「冬の散歩道」(1967)のカバー曲です。オリジナルをカバーが越えたとも言われるほどに素晴らしい歌いっぷりです。
それは女だけで演奏し、異性だけをターゲットにする訳ではなく、同性さえも夢中にしてしまう、決して媚びない自分達のスタイルを貫く姿勢があればこそでした。そんな彼女たちのファッションは、まさにファッション=反逆を行動で示す好例でした。着せ替え人形のようなロックスターは滑稽なだけです。反逆者に多くの衣装はいりません。チェ・ゲバラには軍服とベレー帽さえあれば十分にファッショナブルであったように、バングルスには、特にスザンナ・ホフスには、ボディコン・スタイルとリッケンバッカーさえあればもう他に何もいらないのです。
そして、もう一つ、バングルスには、バングルはいらないものでした。
男の子は、みんな、年上のお姉さんにイケナイことを教えてもらいたいものなの。
「恋の手ほどきIN YOUR ROOM」 1988年10月リリース。全米5位、全英35位
「男の子が知りたいことぜ~んぶお姉さんが教えてあげる」という若い童貞少年を誘惑する悪いお姉さんの歌です。4人とも全身白尽くめで現れ→デビーの蛍光塗料つきレオタード→ボーイフレンドシャツを着たスザンナ→レオタード水着を着たスザンナ→そして、4人とも全身黒尽くめになり→ハイパーボディコンミニで踊り狂うヴィッキー→シタールを弾くヒッピースタイルのマイケル→ミニスカートにブラックハットで微笑み突っ立つマイケル。そんな混沌とした流れのPVです。
その曲調は、かなりサイケデリック・ロックを意識したメロディーであり、バングルスがいかに60年代~70年代のロックを愛しているかがわかります。拘りを捨てずに、それを自分たちの活動の中に落とし込んでいるからこそ、バングルスは、短命を運命ずけられ、その代償として、永遠の命を与えられたのでした。
バングルス・ファッション4 オールホワイト・スタイル
- スザンナ・ホフス
- トップスとスカートがチェーンでつながったホワイト・ミニスカート
- ハイヒール・パンプス
80年代を代表する存在・スザンナ・ホフス。
「胸いっぱいの愛」 1988年10月リリース。全米1位、全英1位
この曲こそ、スザンナ・ホフスが最も輝いた曲であり、バングルスが永遠となった瞬間でした。本作の全米No.1ヒットにより、バングルスは、史上3グループしかいない、全米No.1ヒットを複数生み出したガールズグループの1つとなりました(12曲のスプリームスと2曲のシュレルズ)。スザンナとビリー・スタインバーグとトム・ケリーの共作です。ちなみにこの2人のヒット曲には、マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」、ハートの「アローン」、パット・ベネターの「セックス・アズ・ア・ウェポン」、ホイットニー・ヒューストンの「やさしくエモーション」などがあります。ビリーはこの曲に冠してこうコメントしています。「ビートルズがバーズに会った」ような曲と。
原題のエターナル・フレームとは、〝永遠の炎〟の意味です。スザンナ・ホフスが、グレースランドのエルヴィス・プレスリーの墓に置いてあった魂が眠る永遠の額縁からインスパイアされた曲。10分くらいで歌詞は書き上げられました。そして、オリビア・ニュートン・ジョンに倣い、真っ暗な部屋に全裸でスザンナはレコーディングにのぞんだと言われています。
2009年にフランスのテレビで放映されたバングルス・ライブ。本当の意味での美魔女スザンナ・ホフス。当時50歳。
スザンナは1989年のバングルス解散後、ソロ・アルバムを二枚(『ボーイの誘惑』(1991)、『スザンナ・ホフス』(1996))制作し、「ふたりのベッド・サイド・ラヴ」を第一弾シングルとして発表するも全米30位と振るいませんでした。この時期に彼女が歌った「アンコンディショナル・ラブ」は、シンディ・ローパーのカバー・ソングですが、スザンナの良さが100%引き出せた名曲です。
ザ・80年代。ファッションがまだまだ個性的だった時代。
ミュージシャンのカッコよさとは、トレンドなどを全く無視し、別の次元でファッションを捉えられるところにあります。バングルスの魅力は4人の女性がスタイリストを全く介さずに、ロックするためのファッションを、あくまで自分達自身で考えている(本当に魅力を感じたトレンドだけを時にミーハーに取り入れる)〝ロックスターの原風景〟が見られるところにあります。
そこには現在のファッションショーのようなミュージシャンから失われた魅力があります。結局のところ、すべてに完璧なことは、あらゆる部分にぬかりなくプロフェッショナルの手が加えられているので似通ったものになると言うことです。
大資本のハリウッド映画もそうなのですが、音楽も多くの才能溢れる人間がかかわることにより、個性よりも、手堅い組み合わせがはじまります。そして、それはファッションにおいても同じです。グループ化したラグジュアリー・ブランドが中心となった各国のコレクションが示すものは、結局は個人を感じさせないファッションなのです。
一方、バングルスを見ていると、あきらかに洗練されていません。だからこそ、すごく魅力的なのです。野暮ったいビジュアルの4人の女子達が、我が道を突き進んだ果てに、プリンスを夢中にさせ、一時代を生み出したのです。過去への敬意と新しいもの好きという二面性に満ちた空気感。それが「ザ・80年代」であり、バングルスの魅力なのです。