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オードリー・ヘプバーン

『噂の二人』Vol.2|オードリー・ヘプバーンとシャーリー・マクレーン

オードリー・ヘプバーン
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シャーリー・マクレーンとオードリーの共通点は、バレエでした。

踊れるということは、そのことにより、すでに見えないファッションに身を委ねているということ。

シャーリー・マクレーン(1934-)がこの作品において際立っているのは、『アパートの鍵貸します』(1960)で見せた、ジャック・レモンとの相性抜群の優れた演技力による部分も大きいのですが、オードリー・ヘプバーンの映画において、オードリーが共演者を輝かせる能力による部分もとても大きいと言えます。

オードリーの女優としての素晴らしさ。それは、まさにそこにいるだけで、相手役の俳優さえも、一緒に存在感が格上げされていくムードを生み出せるところにあります。

さらにシャーリーとの共通点であるバレエの素養が噛み合うことにより、素敵な化学反応を起こしたのでした(残念ながら、大幅なカットにより映画自体の生命は失ってしまっていたが)。一見すると地味な作品なのですが、時代を隔てて見ると、二人の美しいバレリーナが私服を着て踊らない踊りを見せてくれている、繊細な感情が舞うように心の琴線に触れる作品なのです。

終盤で二人はボタンダウンセーターを羽織っています。カレンはレディースを、マーサはメンズです。「触られるだけでダメなの」とマーサがカレンに報われぬ同性愛を告白するシーンに溢れる情感豊かな空気。シャーリー・マクレーンという女優の精神性の高さを示すシーンです。

彼女はオシャレなファッションに身を包むファッション・アイコン・タイプの女優ではありませんが、その動きの独特な美しさに於いては、男性よりも女性の心を打つ存在感を示す女優の一人です。

バレエ教室に通わなかったら私の人生はどういうものになっていただろう、とも思った。ダンスはフォーム、アート、美を認識するものであり――厳しい訓練が求められるのは当然なのだ。粗食と睡眠不足に耐え、混んだ電車で通い、苦しみに耐えなければならなかった。肉体に対する精神の闘い、そして、勝利。ついには、肉体を駆使することによって、この人生の時を天来の時間にも似たものに変貌させることもできるのである。

シャーリー・マクレーン『マイ・ラッキー・スターズ』

シンクロする二人の女性。もしかしたら始まっていたかもしれない瞬間。

鳥は両方の羽があるからこそ羽ばたける。シャーリーの名演は、オードリーの名演を示すものです。

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カレン・ライトのファッション5

ジャンパースカート
  • ラウンドネックジャンパースカート
  • ロングスリーブブラウス。ピーターパンカラー
  • カーディガン
  • ローヒールパンプス
  • アクセサリーは一切なし

麗しのサブリナ』のジャンパースカートを思い出させます。

シャーリー・マクレーンのカーディガンはメンズです。

そして、オードリーのカーディガンはレディースです。

オードリーは、女優を相手に演じることが少ない女優でした。

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女性が着るピーコートの魅力

本作の隠れたアイコンコートであるピーコート。

実はこのピーコートは、マーサが着ていたコートでした。

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ピーコートとは、1857年から英国海軍の軍服として着用されていた厚手のカルゼウールのオーバーコートです。ダブルブレストで、幅広のリーファーカラー、碇をあしらったボタン、腰丈が特徴で、1881年より米国海軍の軍服としても認定されました。艦橋や甲板などの厳しい気象条件での使用に耐えられるように、風向により左右どちらでも上前を変えることが可能となっています。

この時代まだピーコートは男性のアイテムでした。それをオードリー・ヘプバーンは見事に着こなしています。スカートの上にピーコートのバランスが絶妙で、永遠の美を誇るシルエットとはいかなるものかということを知る手助けになります。

秋から初春にかけて、女性にとっての肌の役割を果たすものが、コートです。しわくちゃのコートを着ている人と、温かみのあるシルエットのコートを着ている人。コートは女性の第二の肉体なのです。

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カレン・ライトのファッション6

ピーコートスタイル
  • ピーコート
  • ラウンドネックジャンパースカート
  • ローヒールパンプス

コートは、女性の第二の肉体です。

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男性と女性が逆転する映画。

幻の裁判所シーン。ベレー帽の二人。

撮影時、私たちは同性愛について特に議論はしませんでした。あの映画は未熟な子供の非難がもたらした悲劇を描いていましたから。もちろん、ほかにもいろいろな問題を描いていたと言えます。それなのに、私たちはまったく意識してなかったのです。

つまり、自分たちが実際に何を表現しようとしているのか、理解しないまま撮影に臨んでいました。今ならそうとう騒がれたでしょう・・・だとしても当然です。リハーサルが始まってからも、テーマの深刻さについて誰も考えていませんでした。オードリーと私が同性愛について話し合ったことはなかったんです。それって驚きでしょ?今さらながら驚くわ。

シャーリー・マクレーン

自殺したマーサの葬儀の後、一人で去っていくカレン(オードリー・ヘプバーン)を見守るジョー(ジェームズ・ガーナー)。昔の映画の女性のようにただ去り行く愛しき人の姿を悲しげに見守る姿。

それは『第三の男』(1949)のラストシーンと似ているのですが、あちらは、愛なき別れであり、こちらは、愛ある別れであるというて点において明確な違いがあります。そして、1960年代のウーマン・リブ運動の息吹を感じさせます。

20代後半のカレンは10年来の親友マーサを失い、その愛の深さを知ります。そんな彼女の愛に報いる為に、彼女は全てを捨てるのでした。あくまでも他人のジョーには、その感情を共有することは出来ないだろうし、理解の強要もしたくない。愛すればこそ、この愛を断ち切る二人。まだ二人は若いからこそ、愛を捨てるのです。そして、その愛は永遠の清い想い出になるのです。

だからこそ、オードリーの颯爽とした最後の表情が実に美しいです。彼女はベレー帽を被り、マーサの愛の深さを知り、新しい人生を戦う決意を秘め強い足取りで歩みはじめるのです。

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カレン・ライトのファッション7

ベレー帽スタイル
  • チェスターコート(前出)
  • 白のボタンダウンシャツ(前出)
  • ベレー帽
  • ローヒールパンプス(前出)

オードリーは苦しんでいる人を見ると、その苦しみを自分で引き受けようとするような人でした。人を慰め、癒す女性ですね。彼女は人を愛することを知っていました。オードリーが友達でいてくれると感じるために、終始、連絡をとっていないとならないなんてことはありません。私たちは会えばいつも、最後に別れた瞬間に戻れるのです。

シャーリー・マクレーン

幻の裁判所シーン。実はマーサはベレー帽ではなかった。それにしてもオードリーのベレー帽のかぶり方が素敵です。

ラストシーンでかぶっているベレー帽。

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この映画を見ずして、オードリーを語るなかれ!

ジバンシィのファッションに身を包み、共演者のジェームズ・ガーナーとのおちゃらけショット。

オフ・ショット。ハイウエストのパンツが格好良いです。左は監督のウィリアム・ワイラー。

小悪魔を演じるカレン・バルキン。父親はCBSのGMで、実際に大富豪の子女でした。

1949年のカレン・バルキン。恐るべき子供を見事に演じています。

ジバンシィのスーツ姿で『スクリーン』を読むオードリーのオフショット。

『スクリーン』の1961年8月号の「ティファニーで朝食を」特集を読んでいます。

1960年に生まれた愛息子ショーンと遊ぶオードリーと、夫のように見守るガーナー。

ドーナッツをショーンに食べさせる有名なオードリー・ショット。

ファッション的な観点からこの作品を見るとピーコートやプレッピーの要素など興味深い点は多いですが、だからといってオードリー・ヘプバーンのファッション・アイコン性を語るにおいて重要な役割を果たす作品ではありません。

ですが、全盛期のオードリーが、ファッション性を捨てた主題を選び、そんな作品の中でもやはりファッション感度の高さが際立ってしまうところに、この作品の魅力があります。リアルクローズを着るオードリー。そのファッションのスタイルが決して色褪せない不思議さ。

この作品のミニマルなオードリーの佇まいには明らかに、現代のファッションの洗練につながる多くのヒントが隠されているように思います。

作品データ

作品名:噂の二人 The Children’s Hour (1961)
監督:ウィリアム・ワイラー
衣装:ドロシー・ジーキンス
出演者:オードリー・ヘプバーン/シャーリー・マクレーン/ジェームズ・ガーナー/ミリアム・ホプキンス