オー モエリ
原名:Eau Moheli
種類:オード・トワレ
ブランド:ディプティック
調香師:オリヴィエ・ペシュー
発表年:2013年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/23,100円
公式ホームページ:ディプティック
血塗られたコモロの歴史
ディプティックから2013年に発売された「オー モエリ」は、コモロ諸島のモヘリ島をイメージした香りです。それはかの地の名産物である天然のイランイランを使用した香りです。オリヴィエ・ペシューにより調香されました。
ここでまずアラビア語で月の島々を意味するコモロ諸島という、マダガスカル島の近くにあるインド洋の島々の血塗られた歴史について軽く触れてみましょう。
気候は熱帯性。1月から4月が雨季の、4つの島々から成ります。この島々のうちの3島(グランドコモロ島、アンジュアン島、モヘリ島)から成るのが連邦国家・コモロ連合です。
1975年7月6日、フランスから独立して以来(1886年から仏領だった)、クーデターが頻発し、世界でも有数の軍事独裁貧民国家でした。
ちなみにコモロをほぼ私物化していたのが、地獄のコンゴ動乱を生き延びた伝説の傭兵ボブ・ディナール(1929-2007)でした。彼は伝説の傭兵マイク・ホアーとはライバル関係にありました(傭兵部隊「ワイルド・ギース」で有名)。
大統領警護隊長として1970年代から80年代にかけて実質的な最高権力者となり、2人の大統領を殺害しました。
そんな血塗られた歴史を持つコモロは、21世紀に入っても一人あたりの国民所得はわずか760ドルという発展途上国です。そんな3島のうちで、さらに最貧の島であるモヘリ島で、2013年よりディプティックはジボダンと連携し、イランイラン栽培を手がけ、地元の産業の活性化と、生活向上のための支援をしています。
モヘリ島には、しっかりとした産業基盤さえ整えれば、イランイランの安定供給が実現するだけのイランイランが存在するのです(アンジュアン島には世界有数のイランイラン農園がある)。
ちなみにイランイランの収穫は、香りが最も強い、夜明けから午前9時までのわずか数時間で行い、水蒸気蒸留にかけ、最初の30分で得られるものを頂点として5段階の等級に分けられます。
つまりは、この香りは、香料=イランイランを栽培することによって、血塗られた島が、その島の持つ本来の魅力を再生し、復興していく姿をテーマにした香りなのです。
柔らかく温かく包み込むイランイランの香り
秘密のように甘い香を立てていたイランイランが、太陽の下で黄色い花びらがより輝きを増すようにクリーミーかつグリーンの滑らかな芳香を放つようにしてこの香りははじまります。
等級の高いイランイランが使用されているこの香りには、イランイランの持つ魅力が、そこはかとなく引き立てられるような〝優しい調香〟が施されています。オリヴィエ・ペシューの香りは、彼の人柄の優しさが伝わるほど、香りよりも、それを身に纏う人肌に寄り添うような優しさがあります。
強いイランイランではなく、優しいイランイランという未知なる領域から感じることができるのは、安らかな神秘性です。やがてほんのりとスパイシーなピンクペッパーとジンジャーがイランイランにグリーンジャスミンのような活気を与えてゆきます。
だんだんと円みを帯びてゆくクリーミーなイランイランに、ベチバーとパチョリが混ざり合い、ベンゾイン、トンカビーン、インセンスが静かに包み込むような温かい甘さを加えてゆきます。すごく綺麗に肌に馴染んでいく香りです。
血塗られた歴史から、再生の道を歩むコモロの逞しさと優しさを感じさせてくれる、澄んだ水と豊かな自然に囲まれた〝インド洋のイランイラン〟をそのまま瓶詰めしたような心安らぐ香りです。
観光地のトロピカルなイランイランではないところにこの香りの魅力はあります。心の中にも溶け込んでゆきそうなイランイランです。
香水データ
香水名:オー モエリ
原名:Eau Moheli
種類:オード・トワレ
ブランド:ディプティック
調香師:オリヴィエ・ペシュー
発表年:2013年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/23,100円
公式ホームページ:ディプティック
シングルノート:イランイラン、ジンジャー、ピンクペッパー、ベチバー、ベンゾイン、インセンス、パチョリ