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作品データ
作品名:レザボア・ドッグス Reservoir Dogs (1992)
監督:クエンティン・タランティーノ
衣装:ベッツィー・ハイマン
出演者:ハーヴェイ・カイテル/マイケル・マドセン/ティム・ロス/スティーヴ・ブシェミ/クエンティン・タランティーノ/クリス・ペン/ローレンス・ティアニー
ブラックスーツは若者には似合わない。
冒頭でブラックスーツを着た男たちが、マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」について話しています。やがてチップを払う段階になり、一人の男が、「俺はチップは払わねえ」とゴネ始めます。一体こいつらは何者なんだというほどに緊張感のない会話はひと段落し、画面が暗転します。そして、K・ビリーのスーパーサウンド’70Sのアナウンスが流れます。さて始まります。画面は一転し、赤レンガが映し出されます。
このオープニング・タイトルを見て、痺れない男性はいないでしょう。そして、男性的なクールネスを持ち合わせている女性が増えている昨今において、女性にとっても痺れるオープニングです。「ブラックスーツ」と「ナイスな選曲」と「背景の絵」がもたらした効果を決定的なものにしたのは、先頭を歩くハーヴェイ・カイテル(1939-、171㎝)の姿勢の良い歩き方(振り子のように美しくスイングする右手のラインと正確な足はこび)と、前屈ぎみにタバコを咥え、思いっきり煙を吐き出しながら歩くマイケル・マドセン(1958-、188㎝)のクールっぷりです。サングラスを付けたこの二人の大人の男の優雅な歩きっぷりがあったからこそ、ティム・ロス(1961-、170㎝)が調和を乱すように後ろに向かって話しながら歩く姿が絶妙な抜け感を生み出し、全体的な絵に奥行きを与えたのでした。
今見ると当たり前のものでも、その当時に見れば斬新なものがあります。「ブラックスーツとロックの組み合わせ」。これこそが、当時とても斬新な組み合わせでした。そして、この作品が存在したからこそ2001-02年AWのディオール・オムにおけるエディ・スリマンのブラックモード革命が生み出されたのでした。
既に忘れ去られていた70年代のロック・グループジョージ・ベイカー・セレクションの『リトル・グリーン・バッグ』を使用したオープニング・シーンのブラックスーツの格好良さ。この映画により復権するブラックスーツのモード化=「ブラック・モード」の源流にあるのは、1947年にリチャード・ウィドマークがブラックスーツを着た殺し屋を演じた『死の接吻』、そして、タランティーノが愛していたフランスのヌーヴェルバーグの映画の中のダーク・スーツを着た男たち、さらには『ブルース・ブラザーズ』(1980)の二人と、TVドラマ『マイアミ・バイス』のエドワード・ジェームズ・オルモスが演じたマーティン・キャステロ警部のブラックスーツがあります。
この作品のウィドマークは(後に『オリエント急行殺人事件』で12人の名優により殺されることになる)、車椅子の婦人を笑いながら階段から突き落としたりと、どこかミスター・ブロンドのキャラクターに似ている残酷性があります。
『レザボア・ドッグス』によって、ブラックスーツを着るクールな奴らの伝説は始まりました。そしてその系譜は『パルプ・フィクション』(1994)、『メン・イン・ブラック』(1997)、『ザ・ミッション 非情の掟』(1999)、『トランスポーター』(2002)、『ヒットマン』(2007)、『ジョン・ウィック』(2014)へと引き継がれていくことになります。
トレンチコート・マフィア
白帽子か野球帽の奴、全員立て! ジョック(アメリカの学園カーストの頂点に君臨するものたち)共は全部だ!
エリック・ハリス & ディラン・クレボルド
そして、本作は若者たちに多大なるインパクトを与えました。コロンバイン高校(全米有数のスポーツ高校)のいじめられっ子達が自警団として、黒のトレンチコートを身に纏うトレンチコート・マフィアを結成したのでした。彼らは、高校のジョック達からのいじめの対象になっていたのです。そんないじめられっ子にとって本作は鬱憤を発散する作品であり、ミスター・ホワイトの写真がプリントされたTシャツを犯人の一人ディラン・クレボルドは着ていたのです。
そして、1999年4月20日、トレンチコート・マフィアの二人は、12名の生徒と1名の教師を射殺し(重軽傷者は24名にも上る)、45分間の乱射の果てに、銃弾を自ら頭部に喰らい自殺しました。
ナイスガイ・エディ=ナイキガイ・エディ
どこがナイスガイかは分からないが、とにかくナイスガイという綽名を持つエディを演じたクリス・ペン(1965-2006)。そのジャンパーの胸のロゴを見た瞬間、Nice GuyとはつまりNike Guyとかけているのかと勘繰ってしまうほどに印象的な00年代のNYマフィアのチンピラ・スタイルのナイロン・ジャケット姿。この作品の多くの衣装は俳優の私物なのですが(衣装の予算は僅か1万ドルだった)、このナイキのジャケットはクリスの私物でした。