サンタル マソイア
原名:Santal Massoia
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/41,360円
公式ホームページ:エルメス
サンダルウッドの覚醒。新しい森のものがたり。
シダー(杉)のように垂直にまっすぐ伸びる木もあれば、水平方向へ、しなやかに優しく広がるように育つ木もあります。サンダルウッド(白檀)とマソイアは後者です。
そのことを念頭に置きながら、誘うようでありながら、手の届かない謎めいた雰囲気を持つミルキーウッドのフレグランスを生み出しました。松ヤニとドライフルーツの刺激的で意外性のある香りと、ドゥルセ・デ・レチェ(液体キャラメル)と花々の慣れ親しんだ香りが混在します。
ジャン=クロード・エレナ(以下すべての引用はエレナのお言葉)
「地中海の庭」の成功により、2004年にジャン=クロード・エレナはエルメスの初代専属調香師に就任することになりました。そして、≪嗅覚の詩≫とも言える究極のフレグランス・コレクション『エルメッセンス』が誕生しました。
2011年に十作目として発表されたのが「サンタル マソイア」です。サンダルウッドの木とマソイアの木を重ね合わせ、〝新しい森のものがたり〟を肌の上に語らせようと試みた香りです。
ちなみにインドネシア領ニュー・ギニア産のマソイア・ウッドの樹脂は、ピーチやバタースコッチが混じったココナッツのようなクリーミーさを伴うミステリアスな森林の香りがします(ちなみにオスマンサスには、マソイアラクトンが含まれています)。
15年前、香水にはほとんど使われていないマソイア・ウッドに出会いました。水蒸気蒸留した精油はインドネシア料理にも使われていると知りました。
その香りは、スパイスやフルーツ、ミルキーなココナッツが官能的に香り立つ、驚くべき、忘れがたい、神秘的なものです。丸みがあり、しなやかで、肉感的で、淫靡で、一言でいえば女性的な香りです。
エレナのマイソール産サンダルウッドの思い出
エレナが調香師を目指しはじめた頃、1960年代には、マイソール産サンダルウッドの幹と根を積んだトラックが、グラース最大のシリス社の工場に定期的に運ばれてきていました。
マイソール産のサンダルウッドは、石のように密度が高く、硬く、ほとんど白に近いほど淡い色をしていた。そのため蒸留の為に、それを細かく砕く必要があった。
工場では、粉砕機の騒音が耳をつんざくほどだったが、香りは工場の周囲の庭園に充満していた。サンダルウッドを蒸留している日には、精油から馬の尿のような暖かい香りが放出され、私は酔いしれた。私はまだ調香師の仲間入りをしていなかったが、しかし、その臭いは私の心の奥深くにまで突き刺さり、決して消え去ることはありませんでした。
サンスクリット語に由来する名前であるサンダルウッド(白檀)は、高さは12~15mに達する常緑樹で、高地に生育し、乾燥した気候を好み、寿命は100年に満たず、短命です。20年経つと木として利用できるようになります。
約4000年前から中国やインドで、宗教行事では巨大な香炉で燃やされていました。古代エジプトでは、ミイラの防腐処理にも使用されていました。1917年に、サンダルウッドを精油する最初の工場がマイソールに作られました。
現在、インド政府がマイソール産の精油の生産を管理しているため、需要が供給を上回っています。現在、オーストラリアでも大規模に栽培されており、2種類のグレードが生産されています。サンタラム アルバムは、マイソール産に最も近い香りがします。一方、サンダルウッド スピカタムは、一般的にオーストラリアンサンダルウッドと呼ばれ、マイソール産に及びはしませんが、安価な割には、魅力的です。
長らくサンダルウッドのエッセンスは香水の原料として私のお気に入りの一つではありませんでした。その香りは、平板で、淫らで、怠惰で、深みがないように感じます。合成された形では、タマネギのような香りです。
私は、シダーウッドやベチバーなどの「背の高い」香り、またはパチョリのような活気のある香りが好きです。ベチバーとパチョリはそれぞれ根と葉ですが、ウッディノートとして活躍してくれます。
つまり、このエルメッセンスの中で、敢えてエレナがサンダルウッドを取り上げた理由。それは、通常の自分があまり好きではないサンダルウッドではなく、若き日に体感した幻想的なあのマイソール産の幻のサンダルウッドの香りを追い求めて生み出された、〝失われた恋〟なのです。
心の中に広がる、瞑想の森の香り
私にとってサンダルウッドは、官能的で、愛撫するような、柔らかな香りです。
太陽に照らし出された美しい森が目を覚ますように、サンダルウッドが囁くように繊細なクリーミーな木の香りを広がらせてゆきます。すぐに苦くてミルキーなイチジクの葉とココナッツミルクのような甘いマソイアの香りが、朝靄のように森の渇きを癒してゆきます。
あくまで最初から最後まで、エアリーで滑らかに囁くように、瞑想の静けさへと誘う、エキゾチックな森林浴の贅沢な余韻に包まれてゆきます。
やがて、森の木々を通り抜ける柔らかな日の光のように、アイリスとヴァイオレットが静かに薫る中、ローズウォーターとグリーンティーがドライフルーツの上に注ぎ込まれ、透き通るようなミルキーな甘やかさによって素肌に溶け込んでゆきます。
どこまでも透き通る二つの木のシンフォニー。自然の森の生命力を感じさせる甘くてミルキーでありながら、空気のように軽く、あっという間に、肌と一体化する、心の中にサンダルウッドとマソイアウッドの森を生み出していく、〝瞑想の森の香り〟です。
まるで『スター・ウォーズ』でヨーダが隠遁していた森が心の中に広がるようです。さあ「フォースと共にあらんことを」。
作品データ
香水名:サンタル マソイア
原名:Santal Massoia
種類:オード・トワレ
ブランド:エルメス
調香師:ジャン=クロード・エレナ
発表年:2011年
対象性別:ユニセックス
価格:100ml/41,360円
公式ホームページ:エルメス
シングルノート:サンダルウッド、ミルク、砂糖、マソイア、ドライフルーツ、フローラル・ノート