私は〝今日〟世界を救いました
「アイ・セイブド・ザ・ワールド・トゥデイ」 1999年全英第11位
ユーリズミックスの円熟の曲。「スウィート・ドリームス」からの自然な変化に涙なしでは聴けない美しい調べの曲です。「今日、私は世界を救いました」という歌詞にミリタリーパンツ姿のアニー・レノックス。カーキーのジャンパーにブラックのインナー。そして、黒ベルト。相変わらず絶妙のファッション・センスです。
ステップを踏むような歌い方が実に格好良く、もはや哀愁の領域にまで突入しています。2011年にアニーが言った興味深い言葉があります。「私が考えるに、ジーンズとTシャツのごく平凡な組み合わせはファッションに革命を起こしたと思います。今では、大金持ちも、そうじゃない逆の人も同じファッションに身を包んでいるわけですから」。80年代を駆け抜けてきたシンガーは、さすがにファッションに対する鋭い感覚を持っているんだなと感じさせる言葉でした。
世界一メンズスーツが似合う女性
「アイヴ・ゴット・ア・ライフ」 2005年全英第14位
美とは決してささやかなものを求めてはいない。
リチャード・ノイトラ
メンズ・スーツを本格的に着た女性シンガーは、アニー・レノックスが初めてでしょう。しかも、それがただ1980年代に一時的にしたスタイルだという訳でなく、今にもいたるアンドロギュヌス・スタイルとして貫いている所に、彼女の生真面目さを感じることが出来ます。
自分で生み出したスタイルと、他人に生み出されたスタイルの違いです。自分で生み出したものに対して愛を感じるものです。この日本では極めて知名度の低いアニー・レノックスという人。なぜ彼女は、日本のファッション雑誌においても、アンドロギュヌスを特集した内容においても、言及されにくいのか?
それは彼女がポップな存在ではなく、ソウルな存在だからなのです。もし雑誌で彼女の本質について説明するならば、10ページはページを割かないといけません。真実はこうです。本当にそのファッション・アイコンについて本質的な部分に触れたいと思うならば、最低、ここで特集を組んでいるレベルの内容を提示していかないと、その本質の片鱗さえも感じ取ることは出来ないと言うことです。
ファッションと音楽の関係。1960年代以降におけるそれは、反逆の歴史でした。ファッションを知ると言うことは、人間の反逆精神を知ると言うことです。もっと早くファッションを知りたいですという質問に対する答えはただ1つです。もしかして、あなたはお洒落に服を着ることをファッションと考えていませんか?ファッションとは、誰かにお洒落だと感じてもらうものではなく、誰かに、新しいスタイルを見せることなのです。つまりファッションとは新しい自分の発見なのです。
「今好きなデザイナーは誰ですか?」「ドルチェ&ガッバーナです。彼らはとても想像力に富んでいて、時に愉快で、とても美しいです。もし若いときにそれを購入する余裕があったならば、私はとても着たかったんです。そして、ガリアーノのオートクチュール・コレクションです。彼は一種の王様ですね。」
アニー・レノックス。2011年。