バレンシアガ パリ
原名:Balenciaga Paris
種類:オード・パルファム
ブランド:バレンシアガ
調香師:オリヴィエ・ポルジュ
発表年:2010年
対象性別:女性
価格:30ml/7,875円、50ml/10,500円、75ml/13,650円

ニコラ・ジェスキエールのバレンシアガ革命

©Balenciaga
本当に楽しかったです。デザイナーとして、僕たちは素材や構造で多くのことを成し遂げます。それはまさに建築的で、建物を建てるのに近いものです。香りはとても無形のもので、それは感情や感覚そのものなんです。服もそうだけど、香りとは全く違います。香りと向き合う作業は、実は私にとってリラックスできました。
(全裸の)トム・フォードと当時バレンシアガのクリエイティブ・ディレクターだったニコラ・ジェスキエールの対談にて(2010年)
パリ・モード華やかなりし頃、クリスチャン・ディオール、ガブリエル・シャネル、ユベール・ド・ジバンシィといったファッション・デザイナーが活躍していた1950年代に、「クチュール界の建築家」と呼ばれるデザイナーが居ました。その人の名をクリストバル・バレンシアガ(1895-1972)と申します。
クリスチャン・ディオールは彼のことを「万能の人」と評し、ガブリエル・シャネルが「自分でデザインし、パターンをおこし、縫製まですべてをこなすことの出来るたった一人の真のクチュリエ」と一目置いていました。
クリストバルは、1937年からオープンしていたクチュールメゾンを1968年に閉め、引退しました。しかし1986年にブランドとしてのバレンシアガは復活し、90年代半ばに最悪な状態の中、一人の青年のファッション・デザイナーが日本でのウェディングドレスのライセンス部門のデザイナーとして能力を発揮していました。
ファッションの正規教育を一切受けていないこの青年は、ジャン=ポール・ゴルチエの下でデザイナーとして叩き上げてきた人で、1997年にわずか25歳で、復活を目指すバレンシアガの新しいクリエイティブ・ディレクターに就任しました。この青年の名をニコラ・ジェスキエール(1971-、現ルイ・ヴィトンのウィメンズコレクションのアーティスティックディレクター)と申します。
ずっと冬眠状態で、古臭いファッション・ブランドのイメージが強かったバレンシアガの復活に、グッチ・グループのトム・フォードとドメニコ・デ・ソーレは目を付けていました。
そして2001年にグッチ・グループが買収したことにより(ビジネスマンとしても優秀なジェスキエールは、バレンシアガのデザイナーとしてではなく、最高責任者として買収に応じ、9%の株式を保有し、完全にブランドの未来に対する影響力も堅持しました)、大きな資金力を得たバレンシアガは、この年〝シティバッグ〟を発表し、空前の大ヒットとなり、今もバレンシアガを代表するバッグとなっています。
見事、1950年代の栄光を完全に取り戻すことに成功したニコラ・ジェスキエールは、12年近くある思いを持っていました。それはバレンシアガのフレグランスを創造することでした。
そしてようやくその宿願を果たすことになりました。2010年2月に「バレンシアガ パリ」が発売されました(日本では同年4月1日に発売)。1998年の「クリストバル」以来、12年ぶりの新作となりました。
シャルロット・ゲンズブールのためのフレグランス

シャルロット・ゲンズブールとニコラ・ジェスキエール 2010年 ©Balenciaga
1999年、当時バレンシアガはまだボガート・グループに属しており、その事業の一つは映画製作でした。私は彼らに、シャルロットのことが大好きだと伝えていました。私の世代のフランス人にとって、彼女はカルト的な存在です。
私はただ彼女に会いたかったのです。当時、彼女は映画のプロモーション以外では決して姿を見せませんでした。彼女は2000年夏のファッションショーを見に来てくれました。彼女はバックステージに立ち寄り、隅っこに座っていました。私は彼女のことしか考えていませんでした。ショーが終わった後の騒ぎは二の次でした。私たちは話をしました。そしてすぐにまた会い、ランチを共にしました。
ニコラ・ジェスキエール
このフローラルシプレの香りは、オリヴィエ・ポルジュにより調香されました。
まず最初に、1947年に発売されたバレンシアガを象徴するファースト・フレグランスである「ル ディス(Le Dix )」のヴァイオレットの香りにオマージュを捧げた100種類の試作品がつくられました。そ
してジェスキエールがその中から2つを選抜し、1999年以来の親友であるシャルロット・ゲンズブールにひとつを選んでもらいました。
目指したのは、生涯にわたりプレタポルテのデザインを拒絶していたクリストバル・バレンシアガからインスパイアされたクラシカルなクチュールの要素と、ニコラ・ジェスキエールのモダンなビジョンがもたらした現代的なアイデンティティのユニークな融合です。
オリヴィエ・ポルジュ
ちなみにシャルロットは、香水を身につけるのが好きではない人でした。そんな香水嫌いな彼女が、はじめて身に纏うことにした香りがこの「バレンシアガ パリ」でした。
そして、2008年10月にコティと契約し、このプロジェクトが発表された当初は、ジェニファー・コネリーがキャンペーンのミューズになる予定でした。しかしジェスキエールの希望により、シャルロット・ゲンズブールがミューズに起用され、スティーヴン・マイゼルによって撮影されました。
トム・フォードとニコラ・ジェスキエールの対話
トム・フォード(以下TF):キミの新しいフレグランスのプロジェクトはどのようにしてはじまったのですか?
ニコラ・ジェスキエール(以下NG):これは友情の物語です。何年も前にシャルロットと交わした会話がきっかけでした。私が言ったんです。「ねえ、いつか私が香水を作る日が来たら、君のために作りたい」と。そうして始まったんです。非常に限定的で高価なものを作ることもできた。でもこの香水の素晴らしい点は、多くの女性が初めて手に入れられるバレンシアガの商品だということ。それは私にとっての挑戦でした。
TF:(笑)だって、君は現実の女性を気にかけないからね!その話はしたでしょ。
NG:今回は気にしました。
TF:調香師とは直接仕事をしたの?
NG:はい。オリヴィエ・ポルジュと仕事をしました。フローラル系の香りを作りたかったんです。ヴァイオレットの香りのフレグランスです。ヴァイオレットから作られています。
TF:ヴァイオレットは大好きだ。オスカー・ワイルドもヴァイオレットの香りを好んだ。
NG:それが好きな理由です。本当に男性的な雰囲気がある。控えめじゃない。
TF:キミの服も控えめじゃないからね。
同上
シックなパリジェンヌのヴァイオレットの囁き

©Balenciaga
2009年に『アンチクライスト』でカンヌ国際映画祭女優賞を獲得し、キャリアの頂点に上りつめていたこの女性、冷たく値踏みするような視線を向けるシャルロット・ゲーンズブール。
ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンスブールの血を引く、はかなく謎めいた美しさを持つこの女優は、フレグランスの顔であるだけでなく、フレグランスのインスピレーションそのものなのです。
パリジェンヌのシックな魅力を体現する存在である彼女のしずかなオーラを浴びるようなこの香りは、ベルガモットとクローブ(カーネーション)がしずかに弾ける中、雨上がりのヴァイオレットの花と葉が織りなす、透き通るようにうつくしく軽やかなグリーンを基調としたアクアティックなヴァイオレット・リーフの香りからこの香りははじまります。
果樹園から香り立つフレッシュなシトラスの風に乗って、素肌に到来します。それはほんのりパウダリーで、どこか50年代から60年代のパリの灯りも連想させます。
すぐにクリーミーなムスクとシックなパチョリ、アーシィーなベチバーが注ぎ込まれてゆきます。そして都会的なメタリックなアルデハイドも加わります。クラシカルなエレガンスとモダンなエレガンスが交錯するようです。基本的にパチョリはとても優しいのでシプレはあまり感じられません。
やがてスパイシーなシダーウッドとアンバリーなラブダナムも存在を増し、涼しげなヴァイオレットが素肌に自然に溶け込んでゆくようです。溢れる喜びに身を委ねるように広がるエレガントな余韻に包まれてゆきます。
はっきりとした香りではないですが、古臭くもなく、飽きるわけでもない、まさに親しみやすくありながらも、近寄りがたい存在でありたいと願う女性を連想させる、フレッシュなパウダリーさと、独特なクリーミーさを持つ、明るく控え目な、不思議な静謐さに包まれた香りです。

ジェニファー・コネリー、2008年SS ©Balenciaga
ボトルには、メゾンのストーリーを捉え、モダンな感覚を呼び起こすものを選びました。
ニコラ・ジェスキエール
秀逸なガラスのボトル・デザインは、18世紀の花瓶をモチーフにしたものであり、バレンシアガを代表するコクーン・シルエットも連想させるものです。しかも、左右非対称なつくりです。
香水データ
香水名:バレンシアガパリ
原名:Balenciaga Paris
種類:オード・パルファム
ブランド:バレンシアガ
調香師:オリヴィエ・ポルジュ
発表年:2010年
対象性別:女性
価格:30ml/7,875円、50ml/10,500円、75ml/13,650円

シングルノート:カーネーション、パチョリ、ヴァージニア・シダー、ヴァイオレット、ヴァイオレット・リーフ
