錦
原名:Nishiki
種類:オード・パルファム
ブランド:資生堂
調香師:フランシス・ファブロン
発表年:1973年
対象性別:女性
価格:不明
『錦』と共に、山口小夜子様は、資生堂に現れた。
1973年に、日本人形のような山口小夜子様と専属モデル契約(1986年まで)を結んだ資生堂は、同年、ニナ・リッチの名香「レールデュタン」を生み出したフランシス・ファブロンを調香師に迎え、小夜子様のために作られたかのような「錦」を発表し、彼女がモデルとして資生堂の広告に初登場する道筋を作りました。
この時代の資生堂の広告のキャッチコピーはとても魅力的です。「錦」のキャッチコピーは以下の2つです。
- 逢坂をこえる夜かほりたきしめる胸に深く
- 朝霧とけて花にあたり思うことなし心しずまる日
金糸や様々な色糸を用いて織り出された絹織物=〝錦織(代表的なものに京都の西陣織がある)〟からインスパイアされた香りです。さらに、古今和歌集において、素性法師が詠んだ「みわたせば柳桜をこきまぜて宮こぞ春の錦なりける」の中の〝錦〟の持つ意味も、この香りのテーマと言えます。つまりは、〝荘厳華麗な日本の美〟をボトルの中に落とし込んだ香りなのです。
ちなみに京都人が〝錦〟と聞いてまず思い出すのは、平安時代から約1300年の歴史を持つ〝錦市場〟です。
鹿鳴館に香る、日本の花と木と果実の香り
〝錦〟の帯を解いてゆくと、そこからアルデハイドの花びらが桜吹雪のように全身に降り注ぎます。それは日本庭園というよりも、かつて明治から昭和初期にかけて存在した鹿鳴館(1883-1940)のバルコニーから、花々を愛でているような感覚を覚えさせます。
アルデハイドと共に到来するベルガモットとネロリは、ピーチとストロベリーによって、ほのかにジャミーな甘酸っぱさで包み込んでゆきます。どこかゲランの「ミツコ」を想わせるはじまりです。
すぐに、ベチバーとムスクが、花々の開花を前に、アーシィーかつビターなシプレを予感させるように舞い立つように香りを広げてゆきます。香りの構成はフランス香水そのものであるにも関わらず、全くそうならない理由をこの辺りから感じはじめます。
つまりは、同じ香料を使用していても、奥ゆかしさとおもむろではない伏目がち、または流し目のようなパウダリックな香りの漂わせ方をしているのです。この香りにおいては、オリスとヴァイオレットは、菖蒲と菫と呼んだほうが良さそうです。
やがてスズランとジャスミン、ローズを中心としたフローラルブーケが、ウォータリーな百合のアクセントを加えながら静かに開花してゆきます。
荘厳でありつつも、錦帯のように、決しておもむろに主張しない花々は、クリーミーなサンダルウッドとアニマリックなムスクに解きほぐされながら、バルサミックな甘やかさをトンカビーンとラブダナムにより加えられ、雅やかな深みで包んでくれるのです。
着物の上に存在する香りでも、着物を脱いだ後に存在する香りでもなく、夜、愛する人と時を過ごすとき、心の中に香りを灯してゆくように五感に安らぎを与える、ピーチとストロベリーが仄かに香り立つパウダリーフローラルの香りです。
香水データ
香水名:錦
原名:Nishiki
種類:オード・パルファム
ブランド:資生堂
調香師:フランシス・ファブロン
発表年:1973年
対象性別:女性
価格:不明
トップノート:ベルガモット、ネロリ、アルデハイド、ピーチ、ストロベリー
ミドルノート:オリス、ライラック、スズラン、メイローズ、ジャスミン、百合、ヴァイオレット
ラストノート:ベチバー、ラブダナム、サンダルウッド、ムスク、トンカビーン、ペルーバルサム