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『細雪』1|岸恵子・佐久間良子・吉永小百合の着物

吉永小百合
吉永小百合岸恵子
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作品データ

作品名:細雪 (1983)
監督:市川崑
衣装:村上育子/原田桂子
出演者:岸恵子/佐久間良子/吉永小百合/古手川祐子/石坂浩二

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ファッションと言葉に支配されない登場人物たち

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オープニング、嵐山の天龍寺から大覚寺へ、そして、平安神宮の紅枝垂に感嘆する。

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ヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」が流れる。舞台ではバッハの「ブランデンブルグ交響曲」でした。

あんたなんべん言うたらわかるんや。野菜は土のついたままやないと、腐りが早いと言うたやろ。もったいないやないの。 幸子(佐久間良子)

「キモノの魅力が伝わる映画は何ですか?」と問われました。私は「『細雪』です」と答えました。

そこには、日本の美が・・・。いいえ、関西の美が、見事に凝縮されています。特に私が引用した上記のセリフが素晴らしいです。夫が妹とキスする姿を見て驚き、幸子(佐久間良子様)はあわてて台所に飛び込むのですが、狼狽のあまり自分のキモノの裾を踏んづけて、「いた~い!」と泣き声を上げそうな自分を、キウイをわしづかみに握り潰して、食べて抑えている。そこを女中のお春ドンに見られてしまい、気まずくなりしかりつける時の言葉です。

この作品の言葉使いの素晴らしさは、私が関西人なのでよく分かります。あの上流階級特有の、一族内ではキモノの持つ典雅さに包まれ穏やかだが、女中達には、関西弁特有の、突き刺さるような冷たさが放たれる。少し一般の関西弁とは違う響きが格好良い船場言葉

何よりも驚きなのは、佐久間良子様と吉永小百合様が東京出身、岸恵子様がパリ在住の横浜出身、古手川祐子様が大分出身という風に4人とも全く関西に縁もゆかりもない人たちなのです。市川崑監督と方言指導の2人(大原穣子、頭師孝雄)もさることながら、さすがこれが一流の女優様方の「華麗なる変身」なのだなと感嘆させられます。もう一切の物腰に「いとすさまじきもの」はございません。

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日本女優とはキモノで生きる人

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「本物よりお金がかかる」桜並木のシーン。この大沢池の桜は作り物である。

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「汚い手でいらわんといて」「あんたもわや~っとしとらんと!」(思い出したように)「あっそや」佐久間良子様の船場言葉のキレ味が実に自然です。

市川は、蒔岡姉妹の繊細な美を謳歌すると同時に、彼女たちのポーズや、彼女たちの礼儀正しさに、なにかほほえましい倒錯性があるのを感じさせる。彼はサブリミナルに近い技巧をもてあそぶ。あなたは目のすみになにかを見てとるが、それをどう解釈していいのかわからない。

『映画辛口案内』 ポーリン・ケイル(アメリカでも最も影響力のある映画評論家と言われた女性) 朝倉久志訳

私はこの映画が、1983年に全米公開されたということを知り、アメリカの映画評論家は、この作品をどう捉えたのか?ということに興味惹かれました。外から見た方が、中から見るよりもよく見えることがあります。ポーリン・ケイル(1919-2001)という稀代の映画評論家が、四姉妹の交流の中に倒錯性を見出しているところが、実に素晴らしいです。キモノのファッション的背景を知らずとも、4人が発散する隠し切れぬ色気を純粋に捉えているのです。

妹が姉の襟化粧を手伝い、そのもち肌に惹きつけられウットリと頬をくっつける。妹が姉の足の爪を切るために着物の裾をつまみ、太ももまで露わにし、(姉の)爪が綺麗とうっとりする。この妹は古手川祐子様演じる妙子なのですが、どこか姉に対する性的な好奇心の匂いが漂っているのです。吉永小百合様の思わせぶりな態度といい、和服に包まれた女性の色気がこの作品の中には充満しています。