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『アニー・ホール』Vol.1|ダイアン・キートンとラルフ・ローレン

ダイアン・キートン
ダイアン・キートン
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アニー ホール ルック=70年代のニュールック

その種において完全なものは、その種を超越する

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ

ウディ・アレン(1935-)は、この作品で、映画の常識を覆したいという野心を持っていました。彼は「生きる映画」を作りたいと考えていました。それは生活感のある映画というよりも、生活観のある映画でした。そして、その人の生活観を示す「あなたってどんな人?」の問いかけに対する答えを、ファッションの中に示していこうと考えていました。

その結果、ウディは、日頃から目にしていたダイアン・キートン(1946-)のファッションセンスの良さを作品にストレートに反映させることにしました。そうです、アニー・ホールのスタイリングは、全て彼女自身が生み出したものなのでした。

半分は彼女の私物が使用され、もう半分は、ラルフ・ローレンで彼女自身がチョイスし、貸し出されたものでした。こうしてファッション史に残るアニー・ホール・ルックダイアン・キートンの完全なるコントロールの下で生み出されたのです。

ラルフ・ローレンのメンズアイテムで構成された70年代のニュールックの誕生。撮影当初、その斬新なスタイルに、その他の衣装を担当したルース・モーリーは「あんなファッション、ばかげてるわ」とウディに進言したほどでした。

30代前半の女性がメンズのブレザー、ベスト、ネクタイ、パンツを、変幻自在なサイズ感で着ることは、今では150cm周辺の背の低い女性が、GAPやH&Mの少年服を着る感覚に通じるものがあります。それは、スモーキング・ルックとは全く別次元の、大人の女性のグラマラスさよりも、大人の女性の少年ぽさを生み出すスタイリングなのです。

アニー・ホール・ルックとは、引き算ではなく足し算なのです。そして、結果的にそのスタイルは、女性のグラマラスへと到達するのでした。

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アニーホール スタイル1

バナル・ルック
  • ボヘミアン・スタイルのキャミソールワンピ
  • 黒の薄手のロングスリーブニット。タートルネック
  • ボヘミアン柄のフリンジ付きマフラー
  • ブラウンのミニクラッチ

アニー・ホールはまずはこのファッションと共にこの作品に現れます。真っ黒のタートルネックと小花柄のロングワンピとボヘミアンなマフラーというレイヤード感覚が70年代のセンスの突出ぶりを現代の私たちに教えてくれます。

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ウディ・アレンとダイアン・キートン。

ウディ・アレンのミリタリー・テイストが、70年代の空気を出している。

ウッディ・アレンは、M-51フィールドジャケットとブルーのネルシャツです。

このメンズライクなクラッチがアニーらしい。

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アニーホール スタイル2

アニー・ホール・ルック1
  • ラルフ・ローレン
  • ベージュのベスト
  • 白地のチェックシャツ。無地のショートカフス。シャツインしない
  • クリーム色のコットンパンツ
  • 雪の結晶柄のカシミヤマフラー
  • ウエスタンブーツ
  • べっ甲のボストンタイプのサングラス
  • ヘリンボーンのジャケットをコートのように着こなす
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長回しで撮影された有名なロブスターシーン。

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アニー・ホール・ルック。今あるものを最大に生かすファッション。

足元のブーツはともかくとして、それ以外は今でも通用するスタイリング。

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ボストンタイプのサングラスが決まってます。

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女に対する幻想を打ち砕くファッション

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アニー・ホール・ルックは、レイヤードの美学。

かつて映画において、ここまで自分の私服を使用した作品はありませんでした。それが低予算映画の脇役なら分かるのですが、メジャー映画の主役が10数種類のスタイリング全てに私服を使用したのです。しかも、そのほとんどは、メンズ・アイテムでした。

そもそもこの作品自体がプライベートの延長的な部分もありました。ダイアン・キートンとウディ・アレンはかつて実際に付き合っていました。1968年から5年間にわたってです。その後もお互いの才能を認め合う親友としての交流関係は続き、この作品でその関係は昇華します。

当初は、殺人ミステリー映画の予定でしたが、ミステリー部分をなしにして、ライト・コメディに仕上げました。

この作品は、ロブスター・シーンから撮影が開始されました。コカインがくしゃみで飛び散るシーンを含む多くのシーンは、即興で撮影されました。「これまでのドタバタ劇のようなコメディ映画を作るのはやめようと思った」というウディ・アレンにとって、かくして女性の目線から見たコメディ映画が生み出されることになったのでした。

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アニーホール スタイル3

アニー・ホール・ルック2
  • ラルフ・ローレン
  • 黒のソフトハット
  • 黒のベスト。細いウエストラインに、本当にメンズかの疑惑アリ。ベストのボタンひとつ止め
  • 白のメンズシャツ
  • 白ドットのネイビータイ
  • ベージュの2タックチノパン
  • 麻のトートバッグ。あずき色のライン
  • 白のローファー

何よりもこの作品において印象的なのは、二人の主人公のサングラスと眼鏡のフレームの対比です。アニー・ホールは、ボストンタイプのサングラスを愛用し、アルビー・シンガーは、扮するウッディ・アレンのトレードマークでもあるウェリントンタイプの眼鏡を愛用しています。このウッディ・アレンの眼鏡なのですが、モスコットのものともタート・オプティカルのブライアンとも言われています。

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これぞ、アニー・ホール・ルック。

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上下のアンバランスなバランス。ポイントはベストの第一ボタンだけ締めること。

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絶妙のバランスです。チープな生地のものでこのテイストを出そうとすると、どこまでもコスプレっぽさが出ます。

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メンズベストが生み出すフェミニン

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メンズ・タイのチョイスもかなりお洒落な柄です。

恋が生まれるまでは、美貌が看板として必要である。 『恋愛論』スタンダール

この名言をこう置き換えてみましょう。「恋が生まれるまでは、ハイセンスなファッションが看板として必要である」と。アニーは、そのハイセンスなファッションを、少し恥ずかしげに披露します。この恥ずかしげな雰囲気が、その後に続く、こなれ感に伝導した時、男性の恋の導火線に火は放たれるのです。

このファッションこそが、1977年のニューヨーカーを虜にし、世界中のお洒落な女子に影響を与えた「アニー・ホール・ルック」です。今では、映画の内容よりも、彼女のルックのみが女性ファッション誌で一人歩きしています。映画が生み出したファッションというよりは、ウディ・アレンのダイアン・キートンに対する信頼関係が生み出したファッションと言えます。

そのスタイルはプレッピーではなく、あくまでもトラッドです。プレッピーの甘さ、かわいさという要素は一切なく、それでいてトラッドのやぼったさもそこにはありません。メンズ・トラッドを着ることによってダイアンは、新しい洗練された女性像を示したのでした。

それはまさに生命力に満ち溢れている(ダイアンのような)女性が袖を通したからこそ、男性のファッションは、生命を放つとでもいいたげな心躍るスタイリングの妙です。

このスタイルが70年代後半に人々の支持を勝ち得たのは、フェミニズムの盛り上がりはもちろんのことですが、それ以上に、70年代後半から80年代前半にかけて、人々の保守的なものに対する反逆精神の高まりが、アニー・ホール・ルックの賞賛の追い風の要因になったのでした。

作品データ

作品名:アニー・ホール Annie Hall (1977)
監督:ウディ・アレン
衣装:ルース・モーリー
出演者:ウディ・アレン/ダイアン・キートン/クリストファー・ウォーケン