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『タクシー・ドライバー』Vol.7|シビル・シェパードとダイアン・フォン・ファステンバーグ

その他の現代の女優たち
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ダイアン・フォン・ファステンバーグのラップドレス

13才のジョディ・フォスターが演じたアイリスが〝汚れた顔の天使〟であるなら、シビル・シェパード(1950-)が演じたベッツィーは〝高嶺の花〟であり、〝夢のような美女〟でした。二人はトラヴィスの理想の女性の両極端を表しています。

そんなベッツィーが着ているファッションは、70年代半ばの〝夢と希望に満ちた独立した女性〟を象徴するファッションでした。特に、中盤に登場するダイアン・フォン・ファステンバーグのラップドレスを着た彼女は自信に満ち溢れていました。

そのベッツィーの堂々とした姿はまさにダイアン自身の以下の言葉を反映していました。

ラップドレスを着ると、女性は自分が望む通り、自由でセクシーな気持ちになれるのです。それにラップドレスなら一分足らずで外にでる準備もできます。

ダイアン・フォン・ファステンバーグ

ラップドレスが映画に現れた最初の瞬間です。

ラップドレスの優雅さが、冴えないトラヴィスとベッツィーが住む世界の違いを一瞬で分からせてくれます。

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シビル・シェパードが全身全霊を傾けた作品。

アイリス・ルックに身を包むシビル・シェパード。トップスがとてもオシャです。

映画の中で登場しなかった衣装と可愛いローファー。

シビル・シェパードがこれほどいきいきとして美しかったことはかつてない。彼女は演技をしているように見えず、『ラスト・ショー』で見せた生気のない女学生タイプからも脱却したようだ。女らしい、表情豊かな顔が印象的である。人生が期待通りにいかず裏切られたときに見せた、敗北感の漂った微妙な表情もすばらしい。

ポーリン・ケイル

1974年に『アリスの恋』でエレン・バースティンダイアン・ラッドにアカデミー賞をもたらしたマーティン・スコセッシは、その一年前に出会い、絶対に自分が監督したいと宿願にしていた脚本の映画化に取り掛かります。それがポール・シュレイダーがどん底の中、書き上げた『タクシー・ドライバー』でした。

スコセッシはこの脚本には、文学的ではなく〝眼がある〟と感じ、心底惚れ込んでいました。

限られた予算と撮影日程の中、作品を仕上げるために、スコセッシは崇拝する黒澤明に倣い全ショットの絵コンテを書き上げ撮影にのぞみました。そして、彼はこの作品のキャスティングに全精力を傾けたのでした。

なぜならこの作品の登場人物たちは、冷静に考えると実際に存在するわけがない人物ばかりだったからです。大統領候補を暗殺しようとするタクシー・ドライバー、12才のストリート・ガール、白人のポン引き、そして、夢のような知的な美女(ポール・シュレイダーはシビル・シェパードのような美女をイメージして書いていた)。そういった登場人物が実際に存在すると信じさせることが出来るかどうかに全てはかかっていました。

当初ベッツィー役に、人気の絶頂期にあったミア・ファローが名乗り出たのですが、「ニューヨーク一のブロンド美女」じゃないといけないとスコセッシは断りました。そして、ファラ・フォーセットがほぼ確定したのですが、最後の最後で、脚本家がイメージしていたシビル・シェパードが名乗りを上げ、配役を勝ち取ったのでした。

当時のシビルは、ファッションモデルあがりであることから、『ラスト・ショー』(1971)の後、「女優としての才能はまったくない美女」と評価され、キャリア的に行き詰っていました。彼女は、その悔しさをバネに、虎視眈々とチャンスをうかがいながら、ステラ・アドラーの演技クラスで基礎をしっかり学び続けていたのでした。そして、いよいよこの作品に女優生命を賭けようと挑んだのでした。

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夢のように現れるベッツィー(そして、夢のように去る)

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監督自身がチャールズ・マンソンばりに怪しい姿で座り込んでいるその前を颯爽と歩くベッツィーのスローモーションから(もちろんこのスローモーションは、後に3回転するフィールドジャケット姿のデ・ニーロの「Who would not take it anymore」とリンクしている)トラヴィスの棲む掃き溜めの世界との対比がはじまります。ベッツィーのブロンドの髪や白い服は、彼にとって清らかなものの象徴です。

風に揺れるボブヘア。シーンごとに外巻き、内巻き、ストレートと使い分けられており、彼女の丸みを帯びた鼻先のシルエットが、少女っぽさと親しみやすさを同居させています。

さらに、薄めの唇が静かに微笑む時、男を勘違いさせる妖艶さを生み、その眼差しは理知的な冷たい印象を与えるのです。間違いなくベッツィーがいたからこそ、アイリスという12才の少女売春婦に真実味が与えられたのでした。

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ベッツィーのファッション1

夢のような美女ルック
  • 白のデイドレス、フロントボタン、大きく横に広がる襟
  • 黒の太ベルト
  • 黒のチョーカー
  • 黒のクラッチバッグ

ほんの一瞬しか現れない衣装です。

優雅なブッファン・スリーブ。

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ベッツィーのファッション2

プレッピースタイル
  • ネイビーのブレザー。ダブル。金ボタン。彼女の最大の短所になりえる骨格の逞しさ=肩幅の広さをフォローした巧みなシルエット
  • 襟の長いシルクブラウス
  • 白地に黒の水玉スカーフ。首の長さを生かしスカーフを巻く
  • 白のスカート
  • 黒のストラップヒールパンプス
  • オクタゴン眼鏡

首もとの水玉のスカーフが素敵。

オクタゴン眼鏡

ブレザー姿がとても凛々しいです。

後半スカーフだけ変えて、同じ衣装で現れます。

金ボタンのネイビーブレザー

猛暑の中、撮影が行われているためブレザーを脱いでいるシビル・シェパードと監督のマーティン・スコセッシ。

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ダイアン・フォン・ファステンバーグとは?

すごく派手な幾何学模様ですが、映画の中では見事に着こなされていました。

ダイアン・フォン・ファステンバーグ、1972年。

ダイアン・フォン・ファステンバーグ(1946-)はアメリカのファッション・デザイナーです。その名に〝フォン〟が付く通り、かつてドイツの公爵と結婚(1969年)していました(1973年離婚)。

彼女は、1972年にジュリー・ニクソン・アイゼンハワー(ニクソン元大統領の娘)がTV演説で、ラップシャツとラップスカートを組み合わせて着ているのを見たとき、ラップドレスのアイデアを思いつきました。

そして、1973年に史上はじめてラップドレスを発表したのでした。ラップドレスの原型は、1930年代にエルザ・スキャッパレリがデザインしたものであり、1940年代にアメリカンルックを確立したクレア・マッカーデルもラップ風のドレスを発表していました。

膝丈、長袖、ジャージー製、鮮やかなプリントが特徴のダイアンのラップドレスは、70年代後半に一家に一枚あると言われるほどの人気を博することになりました。

1976年には、1週間に25,000着ものラップドレスを売り上げ、ダイアン自身が〝ニューズウィーク〟の表紙を飾り、「ココ・シャネル以来の商業的成功を収めた女性デザイナー」という文字が誌面を飾りました。

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ベッツィーのファッション3

ラップドレス
  • デザイナー:ダイアン・フォン・ファステンバーグ
  • 朱赤の幾何学模様のラップドレス
  • 黒のストラップヒールパンプス
  • 黒のクラッチ
  • 五連のチェーンネックレス

シビル・シェパードは173cmあります。

ベッツィはクリス・クリストファーソンの歌詞を引用し、トラヴィスのことを〝事実と作り話が半分半分の歩く矛盾〟だと評しました。

五連のチェーンネックレスが開いた胸元にマッチしています。

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ベッツィーのファッション4

リブニットワンピース
  • クリーム色のリブ編みのニットワンピース。腰から下はハイゲージに。襟、肩口、ボタンの周りに黒のパイピング
  • 黒のストラップヒールパンプス
  • 黒のクラッチ
  • 首元に黒地に柄のスカーフ

トラヴィスとベッツィーの初デート。

もしかしたらトラヴィスの人生ではじめてのデートかもしれない。

彼女はネックレスをつけていなかった・・・

初デートでポルノ映画館に連れてこられ、激怒して去ってゆくベッツィー。

二人の台詞は、即興でリハーサルを繰り返しながら生み出されていったものです。

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シビル・シェパードとデ・ニーロ

撮影の打ち合わせのときだけ口を利く二人。

シビル・シェパードが女優として評価されたのは21世紀に入ってからでした。そのためこの作品以後、映画ではぱっとせず、地方の舞台で修行し、テレビ女優として大成することになりました。一方、スタン・ゲッツと競演したジャズ・アルバムにおいて、プロ並みのジャズ・ヴォーカルを披露し、さすが、エルヴィス・プレスリーと付き合っていただけある力量を見せたのですが、その歌唱力を生かしてブロードウェイのスターになることもありませんでした。

彼女のキャリアのピークは、ブルース・ウィリスの出世作となったテレビドラマ『こちらブルームーン探偵社』(1985~1989)と後いくつかのテレビ・ドラマでした。2000年に出版された彼女の自伝を読み進めていると、ジャック・ニコルソンやスタン・ゲッツ、ロバート・デ・ニーロと険悪な関係になったと告白しています。彼女はどうも男性のあしらい方が上手くない人なのかもしれません。

デ・ニーロに関しては、その演技スタイル故に、リハーサルも兼ねてどこかで食事しようという提案(当時ダイアン・アボットという婚約者がいた)を、デートの誘いと勘違いし、断ってしまい、後に後悔しています(それ以降、デ・ニーロは、決してプライベートでシビルと口を利かなくなりました)。

恐らく少女の頃から美人コンテストで〝男性から選ばれ続けてきた〟女性のみが持ちうる男性の自尊心をへし折ってしまう対応を取りがちな人だったのかもしれません。しかし、この作品においては、そんな彼女の性格が上手くマッチしているのです。

一度でも会話してしまうと、「オレに惚れたんじゃないか?」と勘違いさせる素晴らしい表情を見せてくれるのです。

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ベッツィーのファッション5

レッドストライプシャツドレス
  • レッドストライプのシャツドレス
  • 赤の太ベルト
  • 首元に赤いスカーフ

ふられたトラヴィスがやって来た!

内巻きのボブに眼鏡を乗せて。

後に選挙演説のシーンでもこのシャツドレスは登場します。

シャツドレスの全容が最もよく分かる写真。

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ベッツィーのファッション6

ラップスカート
  • 白地に赤のバンブー柄のブラウス
  • 太い赤ベルト
  • 赤のラップロングスカート
  • 赤スカーフ
  • 赤カチューシャ
  • 黒革の腕時計

バンブー柄のブラウスが素敵です。

1975年の猛暑の中撮影されました。アイスバーを持つシビルとスコセッシ監督(チャールズ・マンソンのような)。

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すべてのカラーの統一感が素晴らしいです。

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ベッツィーのファッション7

パンツ・ルック
  • 白のテーラードパンツスーツ。かなり広いピークドラペル
  • あずき色の白のストライプ入りブラウス
  • 白のクラッチ


作品データ

作品名:タクシー・ドライバー Taxi Driver (1976)
監督:マーティン・スコセッシ
衣装:ルース・モーリー
出演者:ロバート・デ・ニーロ/ジョディ・フォスター/シビル・シェパード/ハーヴェイ・カイテル