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『ファイト・クラブ』Vol.1|ブラッド・ピットとオリバー・ピープルズ

ブラッド・ピット
ブラッド・ピット
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永遠のファッション・アイコン=ブラッド・ピットの誕生

2019年に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でアカデミー賞助演男優賞を受賞したブラッド・ピット(1963-)は、今では21世紀最高のハリウッドスターのひとりとして〝生きる伝説〟です。しかし、ブラッドは、意外にも30代に入ってからスターになった人でした。

若き日のロバート・レッドフォードに似ていると注目されはじめた頃に、レッドフォードが監督した『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992)に出演する機会に恵まれ、当の本人との仕事によって、ハリウッドスターとして開眼したのでした。

そして、『レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い』(1994)がブラッドにとって初の大ヒット作となり、『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)、『セブン』(1995)と続く作品により、世界的な〝ブラピ旋風〟を巻き起こすことになったのでした。

それまで、ティーンエイジャーのアイドル的存在だった彼が、〝不滅のメンズ・アイコン〟の扉を開くきっかけになったのは、1994年12月に『セブン』で競演するグウィネス・パルトロー(1972-)に出会い、お互いに〝ひとめ惚れ〟した瞬間だと言われています。

実は30代までオシャレに関して、ブラッドは敏感なほうではありませんでした。そんな彼のファッション・センスを最上級にまで高めたのが、10歳年下のグウィネス(女優とテレビプロデューサーの間に生まれたハリウッドのプリンセス)だったのでした。

1998年6月1日から12月11日にかけて『ファイトクラブ』が撮影されていた頃、二人は既に別れていたのですが、この作品におけるブラッドは、そんな彼女によって磨き上げられたスタイルを駆使し、〝30代の男のバイブル〟と呼ぶべきカリスマ的な存在感をこの作品の中で示したのでした。

そして、本作がきっかけとなり、ブラッド・ピットは、21世紀のファッション・アイコンへの扉を世紀末に誰よりも早くこじ開けることになったのでした。

45歳以上の男性にこの作品が理解できないとまでは言わないけど、多くの人が「はあ?」という反応を示しても不思議じゃない。

エドワード・ノートン

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冴えない男の願望が生み出した『究極のオトコ』

今でも、依然、30代の男性にとっての〝理想の男〟タイラー・ダーデン(シャツの丈感に注目!)。

ブラッド・ピットのキャラクターはとても生き生きしていました。そこには狂気がありました。そして、デヴィッドから「やりすぎればやりすぎなほど良い」と言われ、私はすっかり興奮しました。

マイケル・カプラン

脂肪吸引した脂肪を集めて石鹸を作ることで生計を立てているブラッド・ピット(1963-)扮するタイラー・ダーデン。彼はエドワード・ノートン(1969-)扮する「僕」が生み出した、最高にイケテる男の理想像としての幻覚です。

そんな理想の男を演じるという設定が、ブラッド・ピットに映画史上類稀なるあざとさを伴った〝悪のファッション理論〟を体現させる機会を生み出したのでした。

絶対にジェームス・ディーンとスティーブ・マックイーンに影響を受けているであろう、やる気のなさを装いつつも、あらゆる所作にキメポーズを散りばめるという、ブラッド・ピット・スタイルの源流が確立されたのも本作からでした。

物語が20分も進んだ頃にさりげなく登場するブラッド・ピットのオープニング・ファッションからしてぶっ飛んでます。男性のVゾーンをさりげに見せつけながら、コスメカウンターで女性販売員と談笑する姿が、後ほど登場するのですが、女性のへそ出しと同じく、〝オレって相当イケてるでしょ?〟と誇示する姿の滑稽さを見事に伝えてくれています。

この寸足らずのシャツ=自信のあるボディ・パーツは、誇示したいという願望を、ブラッド・ピットという理想の男によって満たし、〝やっぱり変だよね〟と実感させる所が、この作品の面白いところでもあるのです。

ただ真似するだけでなく、まずは自分の頭で考えてみな!という類の〝ファッションムービー〟なのです。

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タイラー・ダーデンのファッション1

シアサッカースーツ
  • 白×グレー・ブロックスストライプのシアサッカースーツ
  • イエロー・ストライプポロ
  • ブルー×イエローベースのギリシア・ローマ観光促進柄のネクタイ(80年代風の幅広)
  • オリバー・ピープルズのOP-523→サンセット

ブラッド・ピットが愛用するオリバー・ピープルズのサングラスが初登場するのはこの作品からでした。この作品には3種類のオリバーが登場します(OP-523、サンセット、エアロ54)。

擦れ違いざまのタイラー初登場シーンのサングラスは、オリバー・ピープルズのOP-523。

ちなみに石鹸を売るシーンでは、同じスーツにオリバー・ピープルズのサンセット。

そして、このVゾーンちら見せスタイル。

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「タイラー・ダーデンを知ってるか?」

同じバッグを持つ男と隣り合わせで座る「僕」。

どこにいようが、おれのトランクはベッドの下からいつでも取り出せるようになっている。いつでも出て行ける。いつ叩き出されてもいいようになっている。

『路上』 ジャック・ケルアック(1951年)

「知ってるか?ガソリンと冷凍オレンジ・ジュースでナパーム弾を作れる」

「前を通るよ。ケツを向けようか?それともムスコを向けようか?」

なんて嘯くタイラー。「僕」との初対面のシーンで、すべての観客はタイラー・ダーデンの虜になることでしょう。

興味深いのが、以下の「僕」のセリフです。「スーツケースに何でも入っていた。カルバン・クラインのシャツ。DKNYの靴。アルマーニAXのタイ」。このブランドの並びは、決して高級品ではなく、広告に影響されやすい「僕」のライフ・スタイルを揶揄しているのです。

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タイラー・ダーデンのファッション2

ワインレッド・ジャケット
  • ワインレッドに白のステッチが所々に入ったジャケット、ノッチラペル、ベントレス
  • 赤×グレーのハウンドトゥース・チェック・トラウザー
  • 白黒のオオハシがプリントされたディスコ・スタイル・カラーのボタンアップシャツ
  • グッチビット・ローファー
  • オリバー・ピープルズのエアロ54

文句のつけようがないほど素敵なワインレッドのジャケット。

実際にこのアンサンブルが似合う男性はそうそういまい。

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ジェニファー・ロペス=タイラー・ダーデン

タイラー・ダーデン=ブラッド・ピット

ジェニファー・ロペス

衣装デザイナーのマイケル・カプランが、タイラー・ダーデンの衣装のイメージを固めていく過程で最も重要なポイントと考えたのは、「とびきりダサい男が考えるクールな男」とは、どんなサングラスをつけているべきなのだろうかということでした。

そして、導き出した答えが、ジェニファー・ロペスでした。彼女のサングラスのスタイルをタイラー・ダーデンに移植しようとマイケルは考えたのでした。

マイケル・カプランは、衣装デザイナーとして『ブレードランナー』(1982)『フラッシュダンス』(1983)『セブン』(1995)『アルマゲドン』(1998)『Mr.&Mrs. スミス』(2005)『バーレスク』(2010)『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015)の続三部作などの衣装もデザインしました。
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「分かったよ頭がいいな」「でもそれで何か得したか?」

そして、このラストレッド(錆赤)のレザージャケット!

自分自身を捕らえて鎖につなぎ止めているもの、社会の罠からの逃避、そして何事に対しても恐れを持たないこと。「ファイト・クラブ」は我々の文化への愚弄と虫ずが走るほど嫌いなのにむりやり押し付けられたものへの応答なんだ。

作品が公開されれば道徳云々という論争に確実に捕まるだろう。さぞかしコテンパンに叩かれるだろうね。でも、芸術が人を楽しませるには時代を反映していなくてはならないんだ。我々はもうあどけない時代に生きているわけでは決してない。50年代とは違うからね。

今回は僕の従来のイメージ、つまり僕にとってのお荷物が功を奏した。現時点では、観客はスーパーマーケットに行ってどの棚に行けば僕を見つけることができるか分かった気でいる。僕もすごくそれを感じるんだ。そこで、この作品ではその期待感を完璧に裏切った。そのことにすごく開放感を感じているよ。

ブラッド・ピット

ラストレッド(錆赤)のレザージャケットに合わせて、かなりの上級コーデを見せるオマエが言うか?というのがこの言葉「お前は〝物〟に支配されている」

そして、タイラー・ダーデンはかく語りき「〝いつか死ぬ〟ってことを恐れずに心に叩き込め!すべてを失ってこそ、真の自由が得られる」

そんな貴方がなぜそこまで物欲にまみれたファッショニスタなんだ!という疑問の針が瞬間で振り切るほどに、この作品のブラッド・ピットは今見てもとびきり格好良いのです。

それはブランドや組み合わせ、自分のステータス、TPOを無視しているにも関わらず、彼自身の性格の一貫性がファッションに反映されているので、とてもクールに見えるところにあります。

チェ・ゲバラと若い頃の毛沢東をミックスしたかのような圧倒的な革命家オーラに包まれているタイラー・ダーデン。退屈な日常に、生気を失っていた男たちが、ファイト・クラブで殴り合い、血と青いあざによって、生気を取り戻すという逆説。まさにこれこそが、昔の共産主義革命と同じ流れなのではないでしょうか?

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タイラー・ダーデンのファッション3

アイコニック・レザージャケット
  • ラストレッド(錆赤)のシングルレザージャケット
  • 白黒のオオハシがプリントされたディスコ・スタイル・カラーのボタンアップシャツ
  • ダークネイビー・トラックパンツ
  • ホッジマンのレイクストリーム・ウェーディング・ブーツ
  • オリバー・ピープルズのOP-523

ラストレッドのレザージャケットは、古着屋で売っているようなものを一からデザインして作りました。革を選び、乾燥した血のような色を決め、革を染め、5着ほど作りました。

出来上がりがあまりに完璧だったので、ハンマーで叩いてボタンを壊したり、革が擦り切れてひび割れたようにリメイクしました。

マイケル・カプラン

この作品のブラッド・ピットには、ロックスターのカリスマ性(フレディ・マーキュリーやジム・モリソン)に相通じるものがあります。そして、この男密度の高さこそが、本作に対して女子を敬遠させる要素にもなっています。

しかし、実は、この作品こそが、21世紀の女性にとって最も重要な作品のひとつなのです。つまり〝30代男子の不滅のバイブル〟とも言えるこの映画のスタイリングは、夫やパートナー、恋人候補へのアドバイス、そして、自分の中に取り入れるメンズの要素にもフル活用できるものなのです。

このレザージャケットを使い、大きく3パターンのコーデを見せてくれます。

こちらももちろん〝へそ出しコーデ〟です。

痺れるほど、魅力的なこのトラックパンツの使い方。

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ラストレッドのレザージャケット。煙草はなぜか逆持ち。この作品から眉毛カットする男子が急増しました。

作品データ

作品名:ファイト・クラブ Fight Club (1999)
監督:デヴィッド・フィンチャー
衣装:マイケル・カプラン
出演者:エドワード・ノートン/ブラッド・ピット/ヘレナ・ボナム=カーター/ミート・ローフ/ジャレッド・レト