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『ローマの休日』Vol.2|オードリー・ヘプバーンとローブ・デコルテ

オードリー・ヘプバーン
オードリー・ヘプバーン
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オードリー・ヘプバーンとローブ・デコルテ

『ローマの休日』の衣裳を担当したのは、ユベール・ド・ジバンシィでもクリスチャン・ディオールでもなく、パラマウント映画の衣裳デザイナーであるイーディス・ヘッドでした。彼女は、その83年の生涯においてアカデミー衣裳デザイン賞を8度受賞し、本作でも同賞を受賞しました。

彼女(オードリー・ヘプバーン)は笑いながら背中を丸めて床に座り(いつも椅子より床のほうを好んだ)、無邪気でかわいい小学生の女の子のように脚を折り曲げて、鋭いナイフのように問題の核心に切り込む率直さで、「プリンセスにあのデコルテは似合わないと思うわ、イーディス!」などといってのけた。

イーディス・ヘッド

元々『ローマの休日』は、1940年代後半に、『或る夜の出来事』『素晴らしき哉、人生!』などの名作を生み出したフランク・キャプラ監督により、エリザベス・テイラーとケーリー・グラント主演で、映画化が予定されていた企画でした。

アン王女とローブ・デコルテ

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アン王女のファッション3

アン王女ルック ローブ・デコルテ
  • デザイナー:イーディス・ヘッド
  • ブロケード・シルクの生地で作られたピンクのボールガウンドレス。大きく花弁が開いたかのようにカットされ、デコルテが強調され胸元が露わになるスタイルのローブ・デコルテ。上品なケープカラーにリボンと肩章が付いています
  • ダイヤモンドを散りばめた高さのあるティアラと、ダイヤモンド・イヤリングとダイヤモンド・ネックレス
  • 白のロンググローブ(握手するために片方脱ぎます)
  • 白もしくはペールカラーのハイヒールパンプス

「彼女はまさに天使のようで、キュビズムの絵画を思わせる」イーディス・ヘッド

Audrey Hepburn as Princess Ann in Roman Holiday, 1953

女性にとって永遠の憧れのウエディング・ドレスの誕生。

現存する本物のローブ・デコルテ。

イーディス・ヘッドのデザイン画。

イーディス・ヘッドのデザイン画その2。

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オードリーのニュールック

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もっとも有名なアン王女の写真。

最高のコメディセンス!〝パンプスが脱げちゃった〟シーン。

オードリーが着ているローブ・デコルテのドレスは、「シンプルに飾ったほうが女優は美しくなる」というイーディスの衣裳哲学が詰まったドレスです。

このドレスは、ヴィクトリア朝のスタイルでありながら、オードリーのトルソーのように細いモデル体型を生かしに生かした現実味のないシェイプで構成されています。驚異的なウエストの絞りとボールガウンの膨らみの対比が、神話性を高める役割を果たしています。

わたしは50年代を再生と自信回復の時代として記憶しています。あの時代には機会と活力と熱気の復活が・・・笑いと陽気さへの回帰があった。世界はふたたび機能しはじめていた。とりわけ、あらゆる贅沢のなかでも最大の贅沢が<自由と平和>への感謝と安心感から生まれた素晴らしい希望があった。

オードリー・ヘプバーン

Christian Dior bar suit 1947

クリスチャン・ディオールの〝ニュールック〟1947年。

『ローマの休日』の映画撮影がはじまったのは、第二次世界大戦(1945年終了)が終わり、ようやく世界が復興に向けて歩みだしていた1950年代はじめです。

それまで上流階級だけを対象にしていたパリのファッション・デザイナーたちが、素材産業の発展に伴い、ファッション産業として大衆の手に届くものを生み出せるようになりました。その最初の一歩となったのが、クリスチャン・ディオールが1947年に発表した≪ニュー・ルック≫でした。

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無名だからこそ生み出せるファンタジー

オードリーがはじめてイーディス・ヘッドに会った日の写真。

若いころ、わたしはエリザベス・テイラーとイングリッド・バーグマンの中間に憧れていた。でも結局どちらにもなれなかった。

オードリー・ヘプバーン

映画の中で真のファンタジーが生み出されることは極めて稀です。『ローマの休日』が、今もなお女性を惹きつけてやまない(何度見ても飽きず、しまいには、食事をつくる時に流すレパートリーになったりする)その理由は、無名時代のオードリーがそこにいたからです。そして、物語のシンプルさ。その根底に存在する能天気さ(お馬鹿っぽさ)にホッと、仕事で疲れた身体と心に安らぎを覚えてくれるのです。

(ワイラー監督から学んだことは)ほとんどすべてといってもよいと思います。単純さと真実だけが重要だ、というのが彼の考えでした。それは内面からにじみ出てくるのでなければならない、作りものであってはならないと。わたしはその言葉をずっとおぼえています。

オードリー・ヘプバーン

撮影当時のイタリアは、第二次世界大戦に負けたばかりで、日本の敗戦後と同じく治安は最悪でした。そんなブラジルのリオ並みに危険なローマの街の路傍で、見るからに世間知らずな服装に身を包んだロングヘアの美人が無防備に眠っているのです。

そして、そこにハンサムな新聞記者ジョー・ブラッドレーが偶然通りがかり無事保護されるのです。さらに翌日、助けられたジョーにスイカ片手に尾行されても、一切気づかず、合流後、ああも堂々とカメラで隠し撮りされるアン王女の姿は、どう考えても、オードリー・ヘプバーンではなく、アン王女そのものなのです。

オードリーがローマの街にいるのではなく、逃亡したアン王女がローマの街にいるんだと感じさせる魔法がこの作品には存在します。

スターがプリンセスという配役に完全にハマることは映画史上極めて稀なことです。しかし、このファンタジーを生み出せる能力こそが、ファッション・アイコンと呼ばれる女優に共通している要素なのです。

それは間違いなく、女優自身の力だけでなく、共演者、監督、照明、脚本。そして、何よりも衣裳と時代の空気によって生み出されたものなのです。グレゴリー・ペックは後に、こう回想しています。

あのすばらしいローマの夏に、オードリーのデビュー作で相手役をつとめ、手を差し延べて、彼女がピルエットやアッサンブレをするときにバランスを崩さないように支えてあげることが出来たことは、わたしにとって大きな幸運だった。あの何ヶ月かはおそらくわたしの映画出演のなかで最も幸福な体験だった。

グレゴリー・ペック

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姿勢の美しさ。バレエの動きの優雅さ

衣裳合わせ

衣裳合わせ

衣裳合わせ

衣裳合わせ。美しいターン。

衣裳合わせ

衣裳合わせ。この伝説の振り返りスマイル。

1956年4月19日にグレース・ケリーが、ハリウッド女優からモナコ王妃になるためのロイヤル・ウェディングを行いました。

極めて凡庸な男性であるレーニエ大公のオーラのなさが、グレースの輝きの足を引っ張る形になりました(一緒に写っている写真よりも、グレースが単体で写っているロイヤルウエディングの写真の方が遥かに輝いてます)。

こちらは1954年のエリザベス女王。

しかし、アン王女には、そういった輝きの足を引っ張る要素は、一切なく、結婚という観念を物語から取っ払い、処女性をほのかに匂わせたことにより、『ローマの休日』は若き女子の永遠のバイブルとなりました。堅苦しい王女の生活から、自由気ままなローマの一日を過ごしてみたいというワクワク感。

ふんわりと広がるローブ・デコルテのボールガウンが、清楚なサーキュラースカートへと変わることに対するアン王女の喜び。それが画面を通して21世紀に生きる私たちにさえ容易に伝わります。

オードリーの全ての仕草は、不滅の可愛らしさに満ち溢れています(華麗なるプリンセスの優雅さを、冒頭の僅か7分間で描ききるところがまた素晴らしい)。男は背中で語るではありませんが、女性こそ、背中=首筋で語る生き物なんだと、冒頭の謁見シーンにおけるオードリーの真っ直ぐに伸びた背筋とネックラインの美しさが、私たちに実感させてくれるのです。

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一生に一度は着たいローブ・デコルテ

冒頭の舞踏会シーンにて。

撮影のひととき。共演者のグレゴリー・ペックと談笑するときもアン王女そのものです。そして、とてもマリア・カラスに似ているアングルです。冒頭のプリンセス姿とグレゴリー・ペックの共演シーンはないので、かなりのレアショットです。

リハーサルするオードリーとウィリアム・ワイラー。

ティアラの位置を調整するオードリー・ヘプバーンとイーディス・ヘッドの背中。

前髪をあげて三つ編みした髪を二重か三重に巻き、ジャストサイズ(このオーダーメイド感が重要)のティアラを装着する。オードリーは元バレリーナだったので、アップ・スタイルに物怖じしません。その首元にはダイアモンドのネックレス。ローブ・デコルテのドレスからむき出しになった胸の谷間よりも、むき出しの両肩と鎖骨の美しさに目が奪われます。

バレエで培われた身体能力と、ボディバランスの良さが、ドレスさえも肉体の一部と感じさせるほどのフィット感を生み出してゆきます。それはまるでプリマドンナのコスチュームのようでもあります。

オードリーがファッション・アイコンと呼ばれる所以は、立体感のある素晴らしいコスチュームを、『白雪姫』をはじめとする30年代から50年代までのディズニー・アニメを見ているかのような二次元の感覚で着こなしている非現実性にあるのです。

作品データ

作品名:ローマの休日 Roman Holiday (1953)
監督:ウィリアム・ワイラー
衣装:イーディス・ヘッド
出演者:オードリー・ヘプバーン/グレゴリー・ペック/エディ・アルバート