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【ゲラン】夜間飛行(ジャック・ゲラン)

ゲラン
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夜間飛行

原名:Vol de Nuit
種類:パルファン
ブランド:ゲラン
調香師:ジャック・ゲラン
発表年:1933年
対象性別:女性
価格:30ml/44,000円

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いちばんたいせつなことは、目に見えない。

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「偉大なるリヴィエール、勝者リヴィエールは、いま勝利の重みを背負って立つ。」

この一文で終わるサン=テグジュペリが書いた小説『夜間飛行』(彼自身も1944年、偵察機で出撃中に、ナチスドイツの戦闘機に撃墜され行方不明になる)が、1931年出版され、彼の友人でもある、ゲランの3代目調香師ジャック・ゲラン(1874-1963)はとても感銘を受けました。

「人間の緊張した意志の力によってのみ到達できるあの自己超越の境地」というテーマの崇高さと、物語の持つセンチメンタリズムを香水に投影出来ないものかと考えたのでした。

こうして、2年後の、1933年に発表されたのが、小説と同じ名前を持つ「夜間飛行」なのです(エールフランスもこの年設立された)。

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真っ白に燃え尽きるバニラの香り

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人間が困難に立ち向かうときに、燃やす静かなる闘志を掻き立てるウッディオリエンタルの香り。それは、ガルバナムの複雑な香りにかき乱される柑橘類の混乱の情景から始まります(歴史上初めて大量のガルバナムが使用された香り)。予備知識のない人がこの香りを嗅ぐと、100人中100人は、不快感を示す香りです。

そこにあるのは、弾けるような柑橘類が表現する、夜間飛行という言葉から連想させる星のきらめきではありません。このはじまりは、サン=テグジュペリの小説の中で描かれた飛行士ファビアンが、暴風雨との闘いに遭遇した瞬間なのです。

そして、「暴風雨の切れ目に2、3の星が輝いた」この希望の顔をした絶望を見つけ、着陸するためには、残り少ない燃料で、暴風雨と格闘しながらも、下へ向かわないといけないと分かりながらも、雷雲を抜け出し雲の上の静寂の世界へと向かってしまうのです。そんな情景が、ガルバナムの嵐の切れ目に輝く花々(スイセン、スミレ、カーネーション、バラ、ジャスミン)により表現されているのです。

彼は螺旋を描いて、しだいに、その開かれた井戸を上って行った。井戸は上って行く彼のあとから閉ざされていった。彼が上るにつれて、雲は暗影の泥を失って、清く白い波のように彼とすれすれに流れ去った。ファビアンは浮かび上がった。

彼の驚きは極端だった。理由は、あまりの明るさに、めまぐるしいほどだったので、数秒間、彼は目を閉じなければならなかった。夜、雲が、まぶしいほど光るなぞとは、これまでの彼には信じ得ないことだった。ところが、満月ともろもろの星座とが、今このように雲を輝かしい波のごときものにしているのだ。

浮かび上がったその瞬間、機はいきなり、異様な静けさの世界に入り込んでいた。機を傾斜させるうねりなぞ一つもなかった。堰を乗り越えた舟のように、機はいま静かな水に浮かんでいた。

<中略>

彼の下にある雲は、月から受ける雪のような光をことごとく反射していた。塔のように高い左右の雲からも同じく光が反射していた。あたり一面を満たして、光の牛乳が流れていた。そしてその中で、機がゆあみをしていた。ファビアンは振返って、無線技師が微笑するのを見た。

『夜間飛行』サン=テグジュペリ

アルデハイドとバニラにより生み出された雲の間をすり抜けていくと、そこには、ゲルリナーデの真骨頂とも言える透き通ったアイリスのような夜空に漂うオークモス、アンバー、そして、何よりもバニラにより生み出された至福の香りが全身を包み込んでくれるのです。

雷雲の上の天国を見て、ファビアンは、通信士と微笑を浮かべ合い、死を確信したこの瞬間、彼は真っ白に燃え尽きたのでした。

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自分の限界に挑戦する女性の香り

女性でありながら、飛行士として多くの飛行記録を残した。

死後、レジオンドヌール勲章が贈られた。

そして、この香りは、同時代の女性飛行士エレーヌ・ブーシェ(1908-1934)に捧げられた香りでもありました。飛行訓練中の事故で僅か26歳で死去した彼女は、女性でありながら、飛行士としての浪漫を求めたサン=テグジュペリの物語を地で行く人でした。

ジャック・ゲランにとって、彼女が兄の友人であり、恋心を抱いていたジャン・ユベールというフランス航空界のパイオニア的だった飛行士が1927年に事故死し、彼の夢を果たすために飛行士になったという物語からも、この香りのインスピレーションを得ていました。

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飛行機のプロペラをイメージしたボトルデザイン

1954年のフレンチ・マガジンの広告。©GUERLAIN

ガブリエル・ゲランによるボトル・デザインは、飛行機のプロペラをイメージして作られています。そして、裏面には太陽が輝き、そのボトルの両面には、夜間飛行の果てに見える光が放射状に広がっています。

この香りに包まれ、目を閉じていると、その心地よい香りにウトウトと睡魔さえも押し寄せてきます。香水とは、身につけて外で誰かに嗅いでもらうものではなく、自分の中に眠る何者かを呼び起こす儀式の水なのだということを教えてくれます。

香りの変化、ジャズをライブで聴くあの感覚。香りの持つ力に酔いしれ、戦いの前には必ずこの香りに酔いしれ、自分を奮い立たすことが出来るだろうという確信。大人の香りではなく、戦いを忘れぬ若い心に相応しい香り。有閑マダムがこれをつけると生きるミイラの防腐剤にしかならない香り。

キャサリン・ヘプバーン、ダイアナ・リグ、バーブラ・ストライサンドが愛用し、私の愛する漫画家・魔夜峰央様の『ラシャーヌ!』においても登場するこの香水(「この香りにつつまれている女性はいつも笑顔でいて欲しい」なんて決めセリフつき)。

小説では松本清張の「けものみち」で成沢民子が、けものみちに迷い込む道先案内人の役割もしていました。


さらには80年代アニメの傑作!「キャッツ・アイ」の瞳が愛用しているのがこの香りです。

ルカ・トゥリンは『世界香水ガイド』で、「このガイドを書いている間、著者の2人とも最低ライン(クリードのラブ・イン・ホワイトがその役割を果たしてくれる)と、最優秀な香水の基準を確認するために、定期的に嗅覚器官を調整する必要があると感じていた。後者はたいてい古いゲランの香水なら、どれを使っても事足りるのだが、私はボルドニュイ(夜間飛行)が評価基準として使うには適していると思う。」

「実際、ゲランの基準からするとどこかまとまりのない、はっきりとした構成に欠けた香水だ。しかし喜びを与えてくれ、期待で胸が踊る。まるで見通しのよい座席に腰をおろし、スポットライトを前にオーケストラの練習に耳を傾けているときのような感覚だ。」

「ボルドニュイと比べるとほかの香水のほとんどは、耳元にあてがって野球中継を聞く類の質の悪いラジオから流れてくる音楽のようだ。このような香水を作り続けているゲランに、神の祝福があらんことを。」と5つ星(5段階評価)の評価をつけています。

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香水データ

香水名:夜間飛行
原名:Vol de Nuit
種類:パルファン
ブランド:ゲラン
調香師:ジャック・ゲラン
発表年:1933年
対象性別:女性
価格:30ml/44,000円



トップノート:マンダリンオレンジ、オレンジ・ブロッサム、ベルガモット、ガルバナム、レモン、水仙
ミドルノート:アルデハイド、アイリス、ジャスミン、黄水仙、バニラ、ヴァイオレット、インドネシア産カーネーション、ローズ
ラストノート:サンダルウッド、ニオイ・イリスの根茎、オークモス、バニラ、ムスク

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