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『細雪』2|岸恵子・佐久間良子・吉永小百合のキモノ

吉永小百合
吉永小百合岸恵子
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作品データ

作品名:細雪 (1983)
監督:市川崑
衣装:村上育子/原田桂子
出演者:岸恵子/佐久間良子/吉永小百合/古手川祐子/石坂浩二

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巴里の日本人・岸恵子様

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岸恵子様。

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デニス・ストックによる撮影。1956年。

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デニス・ストックによる撮影。1956年。

たとえば駅。ヨーロッパの駅などは、人のざわめきはあっても絶対にないのがアナウンス。文字が読めないわけじゃなし、掲示板に表記してあるのに、「何番線に急行が・・・白線の外に・・・」。雨が降る日は、「お足下に気をつけて・・・傘などお忘れ物のないように・・・」。うるせえな、と私はつぶやく。

危険から守ってくれるありがたいご教示が、生きものである私たちを去勢し、幼児化する。最近のテレビには、話者が日本人で日本語を話しているのに、さらに同じことが、日本語でスーパーとして出る。眼や耳の不自由な人への心配りなら、それもいい。けれど不自由でない人までが、至れり尽くせりの親切にからめとられ、私たちは次第に自分でイニシアティヴをとる機能を捨てる。

無菌状態の一見安全な奈落の底で、私たちは知らずのうちに影を失くしつつある気がする。自分という固有の主体がないから影もない。・・・

私の幻想の中で背の高い、灰色の燕尾服を着た男が一人の女性にすり寄って歩く。彼女は若くて美しく、ルイ・ヴィトンのバッグを提げ、セリーヌのブラウスにグッチのベルト、靴はふたたびセリーヌで、歩きながらシャネル製の腕時計をちらりと見た。「もしもしお嬢さん。お美しいのに、あなた、影をいったいどうなさいました?どこかへ置き忘れて、それさえもお気づきではないようですね」・・・

私には見える気がする。影もなくて、着ている物もすべて剥ぎとられた裸の彼女が、一人すたすたと孤独砂漠を歩いてゆくのが。

『30年の物語』 岸恵子

全ての言葉を失わせる人。それが岸恵子様です。私が考えうる限りの女性の中で最も美しい人の一人。私の中での神話の人。美しく年齢を重ねているという月並みの言葉ではなく、自分の個性を見事に磨き上げた人。その結果が美しいということだった人。

私はリアルタイムで見ていない彼女の70年代から80年代前半がとても好きです。特に『赤い疑惑』(1975~76)と『悪魔の手毬唄』(1977)と本作の彼女が。『赤い疑惑』でピエール・カルダンに身を包んだ岸恵子様は、私の中でパリジェンヌそのものであり、オードリー・ヘプバーンの『麗しのサブリナ』に匹敵する〝パリ帰り〟の説得力を生み出していました。それでいて、和服を颯爽と着こなす彼女の和を掴む空気の巧みさに惚れ惚れとします。

当初市川崑監督は鶴子役には、山本富士子様をイメージしていました。しかし、断られ、巴里に住む岸恵子様に、国際電話で直に「ミスキャストで申し訳ないけど」と前置きをして、鶴子役をオファーし、恵子様は、二つ返事で承諾したといいます。後に本作を見た富士子様は「出演していればよかった」と後悔したといいます。

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喜劇列車シリーズの佐久間良子様

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佐久間良子様。

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キモノを着る。オンナを着る。ジョユウを着る。

幸子は昔、貞之助と新婚旅行に行った時に、箱根の旅館で食い物の好き嫌いの話が出、君は魚では何が一番好きかと聞かれたので、「鯛やわ」と答え貞之助に可笑しがられたことがあった。貞之助が笑ったのは、鯛とはあまり月並過ぎるからであったが、しかし彼女の説によると、形から云っても、味から云っても、鯛こそは最も日本的なる魚であり、鯛を好かない日本人は日本人らしくないのであった。彼女のそういう心の中には、自分の生まれた上方こそは、日本で鯛の最も美味な地方、 ― 従って、日本の中でも最も日本的な地方であるという誇りが潜んでいるのであったが、同様に彼女は、花では何が一番好きかと問われれば、躊躇なく桜と答えるのであった。…鯛でも明石鯛でなければ旨がらない幸子は、花も京都の花でなければ見たような気がしないのであった。  『細雪』谷崎潤一郎

この作品の中で佐久間良子様は、縞の着物を着ておられます。縞の着物を着こなせる人は、キモノの上級者だと言われ、上流階級の婦人のお召し物とされています。佐久間様の縞の着こなしはきちっとしており、隙がありません。そんな彼女が、「汚い手でいらわんといて」「そんなことわかってるがな」「~でっせ」といった貫禄のある船場言葉を自由自在に使いわけます。

佐久間様は、本当に芸達者な女優様です。特に私が大好きな若かりし日の彼女の映画が、渥美清(寅さん)さんと共演した貴重な作品である意劇列車シリーズ3部作です。これは3部作といっても堅苦しい作品ではなく、毎回違う登場人物の設定ではあるが、車掌さんを演じる渥美清さんに、片想いされる女性の役柄として佐久間様が出てきます。私が好きなシーンは、毎回繰り返される渥美さんの「夢シーン」です。夢の中で、佐久間様に、誘惑され、言い寄られるのです。その時の佐久間様の色気たるもの、もうこの世のものとは思えぬ程の、「日本のマリリン・モンロー」と私が勝手に命名する程のフェロモンなのです。