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【イヴ サンローラン】ニュ(ジャック・キャヴァリエ)

イヴ・サンローラン
©YSL Beauté
イヴ・サンローラン
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ニュ

原名:NU
種類:オード・パルファム/オード・トワレ
ブランド:イヴ・サンローラン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2001年(廃盤)
対象性別:女性
価格:30ml/9,000円、50ml /11,500円、100ml/15,500円

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トム・フォードとイヴ・サンローラン

トム・フォードとイヴ・サンローラン

トム・フォードによるイヴ・サンローラン2002年FW

トム・フォードによるイヴ・サンローラン2002年FW

この香りの物語は、1999年1月6日からはじまる、LVMHのベルナール・アルノー(1949-)とPPRのフランソワ・ピノー(1962-、2013年以降はケリング会長。妻サルマ・ハエック)による二大ラグジュアリー・ブランド帝国の攻防戦からはじまります。

ドメニコ・デ・ソーレトム・フォード率いるグッチ・グループをどちらが買収するかが、戦いの焦点になっていました。そして、ほぼ99%LVMHの買収が決まりかけていた中、1999年3月に事態は一転し、180億フランという巨額の買収により、PPR傘下に入ったのでした。

ここから帝国の戦いは、LVMHとグッチグループの代理戦争へと移ってゆくのでした。この年12月に、グッチ・グループはイヴ・サンローランを買収し、トム・フォードが全権を託され、アルベール・エルバスエディ・スリマンを首にしました。

後にトム・フォードが2004年にグッチ・グループを離れていく要因になる、グッチとイヴ・サンローランという二つのブランドを、ほとんど同じスタイルで展開させていく流れがここにはじまるのでした。

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トム・フォード朝YSL帝国のファースト・フレグランス

オード・パルファム・バージョンの広告。©YSL Beauté

シャンタル・ルース様

そんな中、1978年に設立されていたイヴ・サンローラン・ボーテもグッチ・グループの傘下に入り、同じくトム・フォードが全権を持つことになりました(2008年以降は、ロレアル・グループに)。

そして、 ボーテ・プレステージ・インターナショナル社( BPI )の会長(1990-2000)だったシャンタル・ルースをボーテの最高責任者に任命したのでした(2007年まで)。

彼女こそは、かつて1976年から1990年までイヴ・サンローラン・ボーテで「オピウム」「パリ」などの名香を生み出した人でした。

かくして、トム・フォードは、凄腕のフレグランス・ディレクターでもあるシャンタル・ルースの協力の下、ファースト・フレグランス「ニュ」の創造に精力を傾けるのでした。そして「ロー ドゥ イッセイ」を共に生み出したシャンタルの秘蔵っ子ジャック・キャヴァリエに調香が任されたのでした。〝Nu〟とはNuditeを略した〝裸〟という意味です。

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21世紀のインセンスの香りブームの草分け。

トム・フォードによるイヴ・サンローラン2001年SS

今日、人間は人間です。ただそれだけです。私は男と女のあいだにはっきりとしたラインを引きたくないのです。

トム・フォード

この香りが発売される数ヶ月前の2000年10月の13日の金曜日に、パリのロダン美術館にてトム・フォードによるイヴ・サンローランの初のプレタポルテ・コレクション(2001年SS)が、600人の関係者を招待して壮大に披露されました。

イヴ・サンローラン(1936-2008)自身がオートクチュールのコレクションを担当する一方で、凄まじいプレッシャーの中、一年かけてトム・フォードは、イヴの40年にも渡る作品を復習し、白と黒でその世界観を再構築し、ファッション・モデルのほとんど全員にサンローランのミューズであるベティ・カトルーの外見を真似させ、21世紀のイヴ・サンローランの〝新しい白と黒のグラマラスな世界〟を世に示したのでした。

しかし、肝心のイヴ・サンローラン自身は、ショウの招待を承諾せず、「ランウェイでの13分間で、私の40年のキャリアを台無しにした」という手紙を後日トムに送りつけたのでした。

そんな混乱の最中に「ニュ」は産声をあげたのでした。21世紀のインセンスの香りブームの草分けとなったこの香りは、残念ながら発売当時、商業的には失敗しました。

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満月が空に冴え、妖艶なふたつの獣が蠢く、甘やかな夜の気配

オード・トワレ・バージョンの広告。©YSL Beauté

閃光のように解き放たれる〝真夜中の月の光〟の香りから〝ニュ〟ははじまります。それは弾けるベルガモットとピリっと冷たくグリーンなカルダモンが織り成す、蒼ざめた月の光に誘われるようです。

まるでクールビューティーな女性の横顔のようなキリっとした空気に包まれる中、すぐに、辛いブラックペッパーと共に煌びやかな樹脂のようなインセンスが、メタリックな大都会の夜風を運んでくるのです。そして、インドールの効いたジャスミンとオーキッド、カーネーションといった色香を撒き散らす夜の花々が甘やかに開花してゆくのです。

やがて、クリーミーなサンダルウッド、ドライなシダーウッド、コーヒーのようにスモーキーなベチバー、官能的なムスク、パウダリーなバニラが、ひとつに溶け合い、満月が空に冴え、妖艶なふたつの獣が蠢く、甘やかな夜の気配に包まれてゆくのです。

ボトルデザインもトム・フォード自身によるデザインです。透明のグレーのプラスチックのパッケージの中に、メタリックなシルバーのコンパクトが収められた近未来的なデザイン(2011年よりボトル・デザインは四角形のものに変更)でした。

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夫が決して香ることの出来ない妻の香り

私の節子のイメージは、三島由紀夫原作の『愛の渇き』の浅丘ルリ子様。

YSLドレスを脱ぎ捨て、ヒールを脱ぎ捨て、ルージュを脱ぎ捨て、すべてを脱ぎ捨てた後の、〝裸〟のふれあいの香り。

節子はこの手紙を出さずに破って捨てた」そんな三島由紀夫の『美徳のよろめき』の節子の肌の香り。快楽と苦痛の果てにある、純粋でありながら罪深い〝夫が決して香ることの出来ない妻の香り〟。

何者か分からない美しさ。その人を知らないからこそ、その人に好意を持ち、逆にその人を知ってしまうと、興味は失われてしまう、人間心理を突くこの香りの不思議な魅力。

トム・フォードとシャンタル・ルースとジャック・キャヴァリエが、イヴ・サンローランというブランドの悪魔的な魅力を濃縮したような香りです。心の中に悪魔を誘い込むとき、もしくは、狙いを定めた相手を悪魔の小部屋に誘い込むために使用する〝よろめきの香り〟。

かくして、トム・フォードがのちに〝二度と思い出したくない〟と言う言葉を残したイヴ・サンローランの残り三年間がはじまるのでした。

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オードトワレ・ヴァージョンについて

©YSL Beauté

トップノート:ベルガモット、ネロリ、カルダモン
ミドルノート:ホワイトオーキッド、アイリス、ジャスミン
ラストノート:バニラ、ムスク、インセンス

オードトワレ・ヴァージョンは、2003年にジャック・キャヴァリエにより調香されました。エーゲ海のような「女は海」色の透過された円筒形のボトルで、パルファムとは全く違うデザインです。何か美容液のようなボトルデザインとも言えます。

EDPの『美徳のよろめき』に、花の優しさをより引き立たせたかのような、官能性は少し抑え目に、スモーキーなインセンスの風に乗り、スパイシーなバニラとパウダリーなアイリスが素肌に溶け込んでいくような、よりフェミニンな香りです。

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香水データ

香水名:ニュ
原名:Nu
種類:オード・パルファム
ブランド:イヴ・サンローラン
調香師:ジャック・キャヴァリエ
発表年:2001年
対象性別:女性
価格:30ml/9,000円、50ml /11,500円、100ml/15,500円


トップノート:ベルガモット、カルダモン
ミドルノート:ジャスミン、ブラックペッパー、オーキッド、インセンス
ラストノート:サンダルウッド、ムスク、ベチバー