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『魔界転生』Vol.1|細川ガラシャ=佳那晃子と魔界に堕ちたい

深作欣二
深作欣二
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幸せな女性より、苦しんでいる女性のほうが美しい

日本では化粧の発達には宗教的起源があった。お巫女さんの厚化粧は、化粧によって神にのりうつられ、霊媒となる用意であって、自分の人格以外のものに変身することを意味していた。

『反貞女大学』 三島由紀夫

1964年から65年にかけて、山田風太郎が『おぼろ忍法帖』の題名で発表した伝奇小説を原作とした『魔界転生』(山田風太郎自身により改題)は、深作欣二監督が、白土三平の『カムイ伝』的な世界観に対する憧れを融合させた新しい感覚の伝奇ロマン時代劇でした。

1981年当時のスーパースター、沢田研二が演じる天草四郎の中性的な〝不滅のアンドロギュヌス〟のイメージと、若山富三郎様が演じる柳生但馬守の殺陣の所作から明らかに伝わる〝和の物の怪〟のイメージ、さらには原作に登場しない細川ガラシャ夫人を登場させ、佳那晃子様(1956-)が演じ上げた〝和の妖しい魔性の美〟のイメージが渾然一体となって耽美的な世界を作り上げていました。

そんな妖気漂う映像舞台の中で、千葉真一が演じる柳生十兵衛の〝不滅のサムライ〟のイメージも実にキレが良く、日本の理想のサムライ像を体現しており、魔族に戦いを挑む孫悟空のような、明快さを生み出していました。サニー千葉が輝けば輝いた分だけ、魔界衆を演じる役者たちも妖しい光を放つことが出来たのでした。

とくに印象的なのは、佳那晃子様の日本女性が持つ情念を一身に背負うような、妖しくも哀しい和美人=ガラシャ夫人の歴史的名演でした。それは『』の原田美枝子に相通ずるものがあります。

西洋文化が日本に入るようになった明治時代に、化粧の持つ意味は、「自然な化粧」となります。しかし、それ以前の化粧と言うものが、日本人に示してきたものは何だったのでしょうか?それを考える絶好の機会になるのが、この作品の細川ガラシャ夫人なのです。

わたしたちは幸せになるために化粧をするのでしょうか?それとも苦しみを乗り越えるために化粧をするのでしょうか?もしかしたら幸せを呼ぶためなのではなく、苦しみを呼ぶために化粧をするのではないでしょうか。男性には与えられない特権として苦しみを美に昇華する本能(=出産)を持つ女性という生き物は、やはり、幸せでいるよりも、苦しんでいるときの方が、どうしようもなく美しく魅力的なのです。

過小評価されてきた佳那晃子元年が、ここから始まる!日本の美の〝不滅のミューズ〟誕生!

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日本女性は黒髪が一番美しい。

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細川ガラシャ=貞淑なキリシタン夫人が、肉欲の虜になる『反転美』

今では伝説的でもある『魔界転生』のスチール写真。

絶世を誇る肉。『魔界転生』のスチール写真。

佳那晃子君は、すごく良かったですよ。あの役は誰でいくかとなったとき、『青春の門』をやったから、松坂慶子がいいと言ったんだけれど、松竹が難色を示した。それで松坂君は諦めて...秋吉久美子という案も出てたけど、時代劇には向かないですよね。それで佳那晃子君になった。

深作欣二

1981年6月6日全国公開と同時に観客動員数200万人・配給収入10億5000万円の大ヒットとなったこの作品は、『太陽を盗んだ男』(1979)に続き映画主演4作目となる沢田研二(1948-)をはじめ、千葉真一(1939-)と真田広之(1960-)が脚光を浴びました。

しかし、時が経つにつれて、佳那晃子様扮する細川ガラシャ夫人の尋常ではない魅力が高く評価されるようになりました。一人の貞淑なる妻が、自分の中の新しい言葉を見つけてしまった瞬間。とてつもなく妖しい美しさに包まれてしまう。その魔性に自分自身も夢中になり、狂おしいほど肉体から不思議な色香が漂うのです。

日本の時代劇の中で、女性の美の魅せ方として伝統的に存在するのが、狂女の怖ろしいまでの妖艶さです(黒澤明監督の『赤ひげ』)。こういった芝居を欧米の女優さん達がすると、『欲望という名の電車』のヴィヴィアン・リー様のように、哀しさを感じさせるものになります。

しかし、日本においての美しき狂女は、物の怪にとりつかれたかのような妖しい美しさに包まれます。それは狂っているというよりも、寧ろあの真面目な文系眼鏡美女の○○○さんが、眼鏡を取って、後ろにくくった髪を解くと、淫靡な色香を解き放つと言った変身願望に近いものがあります。

日本女性の化粧文化の根っこにあるのは、古来からの変身願望であり、それは娼妓に見られるあの白塗りに通じるものかもしれません。それは、男を道連れにして、幸せも不幸せも超越した道へと誘う幽玄さに包まれる滅びの美学なのです。

滅びとはスローモーション。そして、白ほどスローモーションに映える色はありません。ガラシャは貞淑から淫靡へと反転するが、彼女の滅びの美学は全く反転していない所に、細川ガラシャ夫人(実存イメージにおいても)の人となりの面白さが連想されます。

ちなみにクランクイン直前まで、細川ガラシャは高瀬春奈(1954-)で決まっていました。しかし病気になり降板となり、佳那晃子が登板したのでした。


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細川ガラシャの衣装1

キリシタン風着物
  • 恐らく辻村ジュサブローがアドバイスした着物
  • 黄金に菊が浮かぶ袿(うちき)
  • 純白の単
  • ロザリオ
  • シルバーのリボン

天上眉が素敵です。これからのトレンドでは?

まだ魔界転生していない頃のガラシャ様。

明智光秀の三女で細川忠興の正室。1600年大坂玉造の細川屋敷にて死去。

辞世の句「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」

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細川ガラシャの衣装2

魔界風の着物
  • 恐らく辻村ジュサブローがアドバイスした着物
  • 紫ベースの袿(うちき)
  • 純白の単
  • 黄金の帯
  • ロザリオ
  • 黄金のリボン

「まこと、わらわは美しゅう見えるか?」と天草四郎に問うガラシャの背筋が震えるほどの美しさ。

すべての佇まいがとても素敵な佳那晃子様。

沢田研二が演じる天草四郎もとても魅力的です。

黄金のコンタクトレンズで、魔性の目になるシーン。

辻村ジュサブローによる衣装。

日本女性には着物が一番似合います。

作品データ

作品名:魔界転生 (1981)
監督:深作欣二
衣装アドバイス:辻村ジュサブロー
出演者:千葉真一/沢田研二/佳那晃子/真田広之/若山富三郎