エルメス

クリスティーヌ・ナジェル エルメスの専属調香師(2ページ)

    クリスティーヌ・ナジェル
    Christine Nagel
    1958年、スイス・ジュネーヴ生まれ。
    <代表作>
    ツイリー ・ドゥ・エルメス(エルメス)
    ギャロップ・ドゥ・エルメス(エルメス)
    イングリッシュ・ペアー&フリージア(ジョー・マローン・ロンドン)
    クリスタルブルーム(ジル・スチュアート)
    シィ(ジョルジオ・アルマーニ)
    ミス・ディオール・シェリー(クリスチャン・ディオール)
    テオレマ(フェンディ)
    ニュイ・マグネティック(ザ・ディファレント・カンパニー)



    『ミス・エルメス』と呼ばれる女性調香師

    2018年現在、「トップ6」の一人。

    そして、間違いなく世界最高峰の女性調香師の一人。

    世界中には少なくとも500人以上の調香師がいると言われています。それは世界中の宇宙飛行士より少ない数です。そして、そのうちの僅か6人のみがラグジュアリー・ブランドの専属調香師(ルイ・ヴィトンのジャック・キャヴァリエ、ゲランのティエリー・ワッサー、ディオールのフランソワ・ドゥマシー、シャネルのオリヴィエ・ポルジュ、カルティエのマチルド・ローラン)です。そのうちの一人であるクリスティーヌ・ナジェルは、エルメスの専属調香師です。

    1837年創業のエルメスが、香水販売をスタートしたのは、シャネルよりも遥かに遅く、ディオールよりも僅かに遅い1951年でした。それはエドモン・ルドニッカの調香によるオードゥ・エルメスから始まり、1961年の女性用のフローラル・シプレの香りカレーシュの発表によりエルメスの香水は、世界的に認められるようになりました。

    そして、2004年にジャン=クロード・エレナがエルメスの専属調香師に就任し、伝説の〝庭シリーズ〟を発表したことにより、エルメスのフレグランスは、エルメスのレザー製品を購入できない高感度な一般層にまでアピールするラグジュアリー・アイテムになったのです。

    クリスティーヌ・ナジェルとジャン=クロード・エレナ。

    「私が一番好きな花は、サボテンの花よ」

    エレナ就任10周年の2014年に、一人の女性調香師がエルメスの専属調香師に加えられました。その名をクリスティーヌ・ナジェルと言います。彼女は、パフューマーとしての専門的な教育を受けたことのない調香師でした。そんな彼女が、エレナの後継者に選ばれたのでした。



    クリスティーヌ・ナジェルの軌跡

    1980年代に女性が調香師になれる可能性はゼロに等しかった。

    「私はアクネの古いTシャツが大好き。それは最初は黒色だったけど、今は灰色なの」とさらりと言ってのけるクリスティーヌ。ヤコブ・コーエンジェイ・ブランドのジーンズを愛好しているというカジュアル派です。

    私は、全てのパフューマー(調香師)の感性はユニセックスだと思っています。そして、女性が男性向けの香水を身につけると、とてもセクシーなように、男性が女性的なローズを身につけると、とてもセクシーなのです。つまり、現代はジェンダーレスの時代なのです。

    クリスティーヌ・ナジェル

    クリスティーヌ・ナジェルは、1959年にスイスのジュネーヴでイタリア系の両親の下、生まれました。快活な少女だったクリスティーヌの少女時代の夢は、科学者としてノーベル賞を受賞することでした。そして、有機化学を学び、研究科学者になり、やがて、フィルメニッヒ社の調査研究部門で働くことになりました。当時は香りの測定器がなく、鼻でオレンジを嗅ぎ、このオレンジはイスラエルから来たのか?それともカリフォルニアからか?それともイタリアか?ということを判別していく仕事でした。

    そんな彼女が、調香師という仕事に興味を持つきっかけになったのは、フィルメニッヒ社の違うビルで働く白手袋をはめた調香師が、実に楽しそうに、女性の身体に香料を振りかけて調香している姿を見た瞬間からでした。「一体あの人は何をしているの?あの仕事は何?それにしてもなぜ彼はあんなに楽しそうなのかしら?」と感じたその時から、自分自身の仕事がクリエイティブではないと常々考えていたクリスティーヌは、調香の仕事に転向したいと社に打診したのでした。しかし、答えは言語道断にノーという返事でした。

    「1980年代においては、女性であり、シングル・マザーで、しかも、調香師の娘でもなく、グラース出身でもない私が調香師になれる可能性はほとんどなかったんです」と回想するクリスティーヌ(しかし、現在においては、皮肉なことに調香師訓練学校の生徒はほとんどが女性)。

     私の最初の香りの想い出は、母が赤ちゃんだった弟のために使っていたイタリアのベビーパウダー“ボーロ・タルコ”の香りです。その香りは、ヘリオトロープとバニラの香りでした。そして、私の好きな香りは何かと問われたならば、以下の5つの香りとお答えします。それは私の子供、恋人、母の香り。そして、ピエール・ド・ロンサールの香りと、雨が降った後のアスファルトの香りです。

    クリスティーヌ・ナジェル

    そんな彼女に調香師への道を開いたのは、フィルメニッヒ社の調香師アルベルト・モリヤスとの出会いでした。



    ジョー・マローン・ロンドンの奇跡

    ジョー・マローン旋風の立役者の一人でもある。

    「私はフレグランス・ボトルは重いものが好きです。ジョー・マローン・ロンドンのボトルは理想的な重さです」

    やがて、調香師ミシェル・アルメラックの下でアロマティクス・クリエーションズ(現・シムライズ)でクロマトグラフィーの責任者として働き、調香を学びます。1997年にクエスト社で調香師としての仕事を得て、パリに移住し、最初の香りを創造しました。そして、当時同社に在籍していたフランシス・クルジャンとも競作を発表しました。その後、イタリアに移転し、フェンディやヴェルサーチを始めとするイタリアの60%のクライアントを獲得することになります。

    私はあるときは、同じ時期に10種類の香りを作っていました。

    クリスティーヌ・ナジェル

    2000年、スイスのジボダン社で調香師として働きます。2005年にFifi賞を受賞し、2007年、フランソワ・コティ賞を受賞したことにより、世界有数の調香師の仲間入りを果たします。そして、2008年からピエール・ブルドンの後継者としてフレグランス・リソーシズ社で働き、2009年からジョー・マローン・ロンドンのために20以上のフレグランスを調香し、そのほとんどが大ヒットとなりました。

    その実績を買われて、2014年3月に、クリスティーヌは、ジャン=クロード・エレナ(彼は2004年から)と共にエルメスの専属調香師となり、2年間タッグを組み、エルメスのフレグランスを調香しました。そして、2016年にエレナは退任し、クリスティーヌが唯一無二のエルメスの専属調香師となったのです。



    「クリスティーヌ、あなたがエルメスそのものなんです」

    アルマーニ・レッドの口紅と、韓国コスメ・ラネージュのリップバームがお気に入り!

    もしあなたが歴史上の人物のために香水を作ることが出来るとしたら誰のために作りたいですか?「イヴのために!」

    最初に買った香水はマリー・クワントハボックです。一回を除いて香水は自分自身で購入しています。それはギラロッシュフィジーです。そして、私が長年愛している香りは、この二つです。フェミニテ・ド・ボワアンブル・スュルタンです。両方ともセルジュ・ルタンスです。さらに愛以上の感情を感じている香水がひとつだけあります。それはシャネルのボア・デ・ジルです。なぜこれほどまでにこの香りが好きなのか分かりません。だからこそ、この香りは私を惹きつけて止まないのです。

    クリスティーヌ・ナジェル

    別のインタビューでは、ジョー・マローンの調香した「ライムバジル&マンダリン」に対する愛も述べています。

    私は、シャネルのボア・デ・ジル(エルネスト・ボー、1926年)、セルジュ・ルタンスのフェミニテ・ド・ボワ(ピエール・ブルドン、クリストファー・シェルドレイク、1992年)、ブルガリのブルガリ・ブラック(アニック・メナード、1998年)といった香水に対して深い憧憬を感じています。

    クリスティーヌ・ナジェル

    エルメスの調香師には、とてつもない特典があります。それは制限のない予算で、妥協なく原材料を使用することが許されており、期日もないということです。クリスティーヌはラボを、他の調香師のようにグラースには置かずに、パリ近郊のレザー製造ラボ(アドレスも極秘のエルメスの秘密の場所)の中に置いています。それはエルメスの調香師という性質上、そこにある膨大なレザーの香りを嗅ぐ特権を持っているためです。

    エルメス本社からは、次にこういった香水を作ってくれという要求はありません。「エルメスという180年の歴史を誇るブランドで、香水をひとつ作るたびにプレッシャーは大きくなるばかりなの」と笑うクリスティーヌ。「エルメスでは、調香師としては完全に自由です。それは私に多くの喜びを与えてくれます。だからこそリスクを冒さないといけないのです」。

    クリスティーヌの香水に対する実験は極めて原始的です。月曜日から金曜日まで新しい香りを何種類か構成させ、週末にそれを身にまとい、パリ市内を練り歩き、反応を見るのです。そして、誰も何も尋ねてこなかったら、やり直しなのです。「私の調香スタイルは、シンプルさを好みます。シングル・タイプが好きなのです」。あくまでも自己流で、調香師の道を邁進し、頂点にまで上り詰めた彼女のことをエルメス内において「ミス・エルメス」と呼びます。



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