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『ティファニーで朝食を』Vol.1|オードリー・ヘプバーンとリトルブラックドレス

オードリー・ヘプバーン
オードリー・ヘプバーン
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オードリー・ヘプバーンの1960年代

1950年代のオードリー・ヘプバーン(1929-1993)のイメージは、プリンセス、パリモードが最も似合うハリウッド女優、ファッションモデルでした。そんなイメージを大切にしながらも、1959年に30歳になろうとしていたオードリーは、色々な役柄にチャレンジしたいと考えました。

そして、まず最初に『尼僧物語』で尼僧を演じ、翌年(1960年)には『許されざる者』で初めての西部劇に出演しました。

さらに1961年にオードリーは、『ティファニーで朝食を』でとても繊細な役柄を演じることに挑戦したのでした。それは、19歳の高級娼婦という役柄でした。かつて、テキサスに大牧場を持つ年配の獣医と結婚していたホリー・ゴライトリーは、そんな田舎生活に嫌気が差し、家出をし、カリフォルニアで女優としてスカウトされるも、そこからも逃げ出し、ニューヨークで高級娼婦として、パーティー三昧の暮らしをしています。

ただし、この原作のままではなく、わかりにくく娼婦色は匂わす程度にして、自由奔放な若い女性を演じたのでした。そして、この作品により、オードリーはパリだけでなく、ニューヨークにおいても洗練された都会の〝ハイセンスな美女〟であるという不滅のイメージが作り上げられたのでした。

オードリーは、本作により、75万ドルのギャランティを受け取り、当時ハリウッドで最も高給な女優となりました。かくして、オードリーとジバンシィの60年代ははじまったのでした。そして、パリモードが、ニューヨーク(=世界の各大都市)へ、はっきりと溶け込み、ファッション文化の大衆化は加速することになったのでした。

いまのファッションを女性たちは当然のように思って着ているが、もしオードリー・ヘプバーンがいなかったら、そういった服を今着てはいなかっただろう。

マイケル・コース

もはやオードリー・ヘプバーンのような人はいない。悲しいことだ。オードリーはファッションに影響を与えた。今はファッションに影響力を持つ人は音楽界にいる。マドンナだ。・・・今のスターは、次々とデザイナーを替えるようだ。ひとつのスタイルにあまりこだわりたがらない。

映画の中では自由に変えられるが、実生活の中では自分自身でいるしかない。オードリーはいつもジバンシィを着ていた。彼女とジバンシィは60年代のエレガンスを象徴していた。『ティファニーで朝食を』はファッションと映画スターの完璧な結合だと思うよ。現代にはそういうものはない。・・・スターはひとつのスタイルをもたなきゃいかん。いつもデザイナーを替えてばかりいるスターは、自分の外見に対するイメージをきちんともっていないということになる。

ジャンニ・ヴェルサーチェ、1997年のインタビュー。

ティファニーによってオードリーが輝いているのではなく、オードリーによって、ティファニーがより輝いたのでした。

シガレットホルダーがこれほど似合う女性もいない。

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「十六歳から三十歳のどの年齢と言われても不思議ではない」女性

『ティファニーで朝食を』を象徴する写真。

ティファニーのイメージさえも変えてしまうオードリー。

私はホリー・ゴライトリーのようではないけれど、彼女を〝演じる〟ことは出来ると思っています。この役柄が私にとって挑戦になることはわかっていますが、それを望んでいました。この役をやることでかなりのリスクを冒すんじゃないかということは、ずっと考えていました。もうちょっと突飛な感じが出せればよかったかもしれません。でも当時は母親になったばかりで、あれでも私としてはできるだけワイルドにしようと思ってやっていたんです。

オードリー・ヘプバーン

オードリー・ヘプバーンは、30歳を越えたときに、色々な役柄に挑戦したいと考えました。自分の年に相応しい、その時にしか出来ない役柄があるはずだと考えました。

彼女にとって、ホリーという19歳の娘の役柄(原作にはホリーについて「十六歳から三十歳のどの年齢と言われても不思議ではない」と書かれている)こそ、30過ぎの女性の洗練によって、「新しい女性像」に光と影を生み出すことが出来るだろうと考えたのでした。

光と影の存在が、その役柄に生命力を与え、60年代を超越したアンチエイジングなファッション・アイコンを生み出したのでした。

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ミス・ホリデー・ゴライトリー、トラヴェリング

人目を避け日曜日の早朝に撮影は行われました。しかし、数百人のギャラリーがいて、オードリーはNGを連発しました。

ドレスとジュエリーが見事に調和しているバックシルエット。

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実際のオードリーはデニッシュが大嫌いでした。

女性が部屋に入ってきて、人から「まあ、素敵なドレス!」と言われたなら、それは着こなしがヘタだということ。「なんて素敵な女性なの!」と言われたなら、着こなしがうまいということです。

ココ・シャネル

ホリー・ゴライトリーは、夜通し遊んで気分が沈んだ朝、人気のない五番街五十七丁目のティファニーのショーウィンドーを眺めながら、朝食のデニッシュ片手にコーヒーを飲むことが大好きです。

オープニングシーンは、イブニングドレス姿で彼女がそのようにして朝食を食べるシーンから始まります。原作にないこのオープニングシーンが、オードリー・ヘプバーンの60年代のイメージを作り上げました。

ほとんど夏のような暖かな夜で、彼女はほっそりとしたクールな黒いドレスに、黒いサンダルをはき、真珠の小さなネックレスをつけていた。その身体はいかにも上品に細かったものの、彼女には朝食用のシリアルを思わせるような健康な雰囲気があり、石鹸やレモンの清潔さがあった。両方の頬には飾り気のないピンクの色が濃く差していた。口は大きく、鼻は上を向いていて、両目はサングラスで隠されて見えない。子供時代は過ぎていたが、まだ女にはなりきっていない顔だ。

『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ 1958年(村上春樹訳)

ティファニーの前でパンをかじるその姿が何故、世界中の女性を惹きつけて止まないのでしょうか?それはオートクチュールのブラックドレスを着たエレガントな女性が、デニッシュをかじり、紙コップのコーヒーをすするというアンバランスな行為を、難なく共存させることが出来るオードリーの個性をもってなせる技でした。

一番最初に撮影されたシーンがオープニングショットでした。このシーンは、日曜日の早朝にマンハッタンの5番街にあるティファニー本店の前で行われました。しかし、数百人のギャラリーがいて、オードリーはNGを連発しました。
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オープニングのリトルブラックドレス

オープニング・ドレスの全容。

ロンググローブとのバランスが絶妙です。

作中にも登場するバスタブを半分にカットしたソファー。

残り半分は、花壇として使用。

このドレスは、とても60年代風だ。フロントは簡素で、エレガントで、クリーンで、しかし、バックは首のラインを強調させる。エスニックとパリジャンの間にあるどこにもなかった女性的なやわらかさがある。

リカルド・ティッシ(元ジバンシィのクリエイティヴ・ディレクター)

ユベール・ド・ジバンシィがデザインしたブラックドレスは、1926年のシャネルの「ラ・ギャルソンヌ」から強い影響を受けています。

このドレスのコピーは3着作られました(オードリーが歩きやすいように、少しルーズなシルエットのものと、ポージング用の動き辛い細身のシルエットのもの)。1着はジバンシィが保管し、残りの2着はオードリー自身が所有し、のちに1着はマドリッドのコスチューム博物館に、もう1着は、2006年にクリスティーズで約92万ドルで匿名で落札されました。

このブラックドレスの細部に目を凝らしてみると、如何にユベールがオードリーのことを考えてドレスをデザインしたかが分かります。まず最初に、オードリーの長い首が生かせるように襟元にゆるやかな丸みを持たせています。これは平らなバストを巧みにカバーする効果も生み出しています。

一方で、背中をオープンにすることによって前面のクールさと背面のセクシーさのギャップを生み出しています。

さらにハイウエストに絞った腰周りにギャザーを入れ、流線形のラインを構築しつつ裾をしぼり、黒のオペラグローブで全体のシルエットを黒一色が生み出すクールさで引き締めています。かくして、エレガントでセクシーな洗練された女性の誕生と相成るのです。

ジバンシィがデザインしたブラックドレスはショート丈だったため、イーディス・ヘッドがロングドレスに仕立て直しています。
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ホリー・ゴライトリーのファッション1

リトルブラックドレス
  • デザイナー:ユベール・ド・ジバンシィ
  • イタリア製のサテンで作られたリトルブラックドレス。ストレートラインでノースリーブ。美しいローカットのバック。地面すれすれの絶妙な裾丈
  • ブラックサテンのオペラグローブ
  • ブラックローヒールボウパンプス
  • 大き目の鼈甲のオリバー・ゴールドスミスのサングラス「マンハッタン」。オードリーはこのサングラスを1960年に初登場の時に購入し、1972年まで使用しました
  • 白いストール
  • ロジェ・セママの五連パールネックレス
  • 夜会巻きに、ダイヤモンドの髪飾り

ロジェ・セママの五連パールネックレス

タイムレスな輝き。そして、今の時代には存在しない輝き。

ティファニーのショーウィンドーを見つめるホリー。

実はオープニングでホリーはずっと白いストールを持っています。

ジバンシィのリトルブラックドレス。

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全く同じドレスを着たナタリー・ポートマン

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©Harper’s BAZAAR

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©Harper’s BAZAAR

©Harper’s BAZAAR

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パンプス:ステラ・マッカートニー ©Harper’s BAZAAR

『ハーパーズ バザー』2006年11月号でナタリー・ポートマンは、(当時ジバンシィのデザイナーだった)リカルド・ティッシが作成したレプリカを着て、ティファニーのジュエリーをつけ、ピーター・リンドバーグにより撮影されました(このドレスが同年12月5日にクリスティーズで落札されたドレスです)。

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ホリーのパジャマは、メンズシャツ

ゴールドの眉毛とまつ毛が刺繍されたスリーピングマスク。

フロントにスタッズ、袖にはカフリンクスがついています。

袖周りがとてもセクシーです。

鏡台には、たくさんの香水瓶が並んでいます。

オードリーはメンズシャツの着こなしが得意です。

イカ胸のメンズのフォーマルシャツです。

オードリーのようになりたい、と夢見ない女性がこの世にいるのだろうか?

ユベール・ド・ジバンシィ

名前のない猫を飼い、自分の過去の名前も捨てたホリーは、なぜかティファニーにこだわります。そして、彼女のパジャマはメンズシャツに、仮面舞踏会のようなマスクをスリーピングマスクにしています。

とても自由奔放に生きるホリーの職業は〝高級娼婦〟なのです。

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ホリー・ゴライトリーのファッション2

メンズシャツ
  • デザイナー:イーディス・ヘッド
  • メンズのイカ胸の白ドレスシャツ。シャツは後ろボタンでしめる。パジャマのようなボックスシルエット
  • ティファニーブルーのスリーピングマスク
  • 藤色のタッセル付き耳栓

このスリーピングマスクが欲しいです!

ホリーの部屋は今見てもファッショナブルです。

ホリーの部屋の間取りです。すごく広い!

作品データ

作品名:ティファニーで朝食を Breakfast at Tiffany’s(1961)
監督:ブレイク・エドワーズ
衣装:ユベール・ド・ジバンシィ/イーディス・ヘッド/ポーリーン・トリジェール
出演者:オードリー・ヘプバーン/ジョージ・ペパード/パトリシア・ニール/ミッキー・ルーニー/マーティン・バルサム